国内

2024.10.11 13:30

「儲からない」けど「意義がある」社会課題解決に挑む5つのスタートアップ

海の生態系を「海藻」で豊かに

蜂谷 潤、友廣裕一|合同会社シーベジタブル

「日本中の海から海藻が減っているという危機感から、海藻を研究し、独自の種苗生産技術を用いて、安定的な陸上栽培、海面栽培を行い、海藻の新しい食べ方の提案までを行っています」
 
蜂谷潤と友廣裕一が2016年に設立したシーベジタブルは、世界初、地下海水を利用したすじ青のりの陸上栽培モデルを確立し、高知県や熊本県などで通年生産してきた。21年からは、海藻が形成する藻場が消失する「磯焼け」に対して、海面養殖の取り組みも開始。海水温が下がって食害を受けない栽培方法や時期、海域などを特定し、環境に適した海藻を栽培していく。同社では、これまでに30種類以上の海藻の種苗生産に成功してきた。

「藻場には、魚や貝などの海の生き物たちの命を育む機能があり、海の生態系のバランスを保つ役割がある。海面養殖の海藻でもこの生態系を豊かに育むことが実証されてきた」(蜂谷)
 
また、同社では、新しい海藻食文化の創出も行っている。ミシュラン三つ星レストランであるデンマーク「noma」の京都の期間限定店舗では、同社が栽培したスーナなどを使った海藻しゃぶしゃぶが提供された。

「僕らが適切な値段で海藻を買い戻せるように『出口』を増やす必要がある。日常のなかで海藻の登場頻度が増えなければ、海を豊かにできません。日本は世界で最も海藻食文化が進んでいますし、海外にも文化を広げていくポテンシャルは十分にある」(友廣)

左:はちや・じゅん、右:ともひろ・ゆういち◎2016年に合同会社シーベジタブルを設立。蜂谷が主に研究/生産、友廣が新たな海藻食文化の創出を担っている。同社には研究者から料理人までが在籍。


「思春期側わん症」の早期発見・治療の実現へ

野口昌克|SMILE CURVE

背骨がねじれを伴いながら左右に曲がる「側わん症」。全世代に共通する疾患だが、特に思春期の女子に多く見られる。50人に1人の女の子、500人に1人の男の子が苦しんでいるといわれている。側わん症は、本人の自覚なく、無痛で進行し、重度になると痛みだけでなく、肺や神経を圧迫して呼吸器障害を引き起こす。そのため、重症患者では手術が必要となる。
 
2007年、米国・カナダの研究で、思春期に軽症で発見し、装具治療を施せば75%の確率で手術を回避できることが報告された。これにより側わん症の早期発見の重要性が高まった。現在、世界各国で思春期の児童に対して、側わん症検診が推奨、実施されている。日本では1978年より学校保健安全法において、学校での側わん症検診が義務化されており、全児童が毎年検査を受けている。親による自宅でのチェックと、学校医による視触診であり、側わん症の専門家でないため、特に軽度な側わん症を早期発見することが難しく、見逃しや見落としによる訴訟も発生している。
 
このような状況を打開するため、SMILE CURVEは、次世代型の検査システム構築を目指している。「側わん症は世界共通の課題であり、日本初の検査システムを世界に届け、側わん症に苦しむ児童・家族を少しでも減らしたい」(野口)。同社は、側わん症の早期発見から治療、経過観察に至る全体・プロセス・サービスを再構築し、世界進出も視野に入れている。

のぐち・まさかつ◎京都大学理学部卒。同大学大学院博士(生命科学)修了。ドリームインキュベータ、米アボット、サナメディなどを経て、2023年8月にSMILE CURVEを創業、現在に至る。
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文=山本智之 写真=平岩亨、若原瑞昌(1P目文中) イラストレーション=ムティ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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