次に、GXは安全保障そのものだ、という観点が重要だ。日本は、石油も石炭もほぼすべてを輸入に頼る。水力発電は容易に増やせるものではない。決定打とされる原子力発電もこの国では特有の難しさがある。そんな状況下で石油が入ってこなくなったら、日本はおしまいではないか。エネルギー自給は喫緊の国家課題であり、GXを国の強靭化の千載一遇の好機ととらえるべきだと思う。
また、この点では、当面の化石燃料確保も実は重要である。日本がGXのめどをつける前に、世界的な危機が勃発するもしれない。日本の石油輸入先は地政学的リスクが高い地域でもある。平時から、いざというときのための石油備蓄とサプライチェーンの整備を急いでおくべきだ。また悩ましい限りの原発の活用の仕方についても、現実を直視した検討が必要だと思う。
件の旧友のみならず、米国でも脱炭素運動に懐疑的な声はかなりの勢いを持っている。それでも、GXへの向き合い方が、国の飛躍か衰退かを分けること自体は間違いない。今こそ、この世界的テーマを上手に活用するしたたかさを身につけたいものだ。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。