もちろんiPhoneは年間を通してテクノロジー業界全体にとっても、アップルにとっても極めて重要な製品である事は間違いない。しかし、実際の新製品を使った中でもっとも「腑に落ちる」感覚があるかといえば、それはAirPods 4だ。
アップルは音楽産業とオーディオ業界に対してテクノロジーを通じて、大きな変革影響与えてきた。完全ワイヤレスイヤホンを初めて製品化し、音楽への没入だけではなく聴覚を通じたコミュニケーションツールとしての提案を行い、空間オーディオ技術を音楽と映像作品を楽しむ際に当たり前のものとして定着させた。
アップルはなぜ、オーディオ業界の常識を変え続けることができているのだろうか。その理由は、この製品を掘り下げていくと見えてくる。
生活の中に自然に馴染む設計コンセプト
初めてのAirPodsが登場した時、左右の耳に白い細長いデバイスが装着されているのを見て、極めて不自然に感じた人は多かったようだ。日本では耳から「うどん」が出ている、海外では耳から「パスタ」が出ているといった表現が使われたほどだ。アップルがAirPodsで目指したのは、音楽を聴くためだけのデバイスではなく、常に生活の中で装着しておきながら、iPhoneと連携して聴覚を通じた新しいエンターテインメントやコミュニケーションのスタイルを確立することだった。
そのために左右完全独立したワイヤレス技術を採用し、耳の穴を遮蔽しないオープンデザインを採用し、誰もが簡単に使いこなせるようiPhoneとの密な連携が図られた。その後の開発で、着信したメッセージの読み上げ機能や、異なるアップルデバイス間でのシームレスな接続など、現在では当たり前のように捉えている利用スタイルを提案し続けてきている。
振り返ってみると、彼らが目指していたのは音楽を聴くために没入するだけではなく、生活の中の様々な場面で、スマートフォンとともにオーディオ技術を活用するスタイルを確立しようとすることだった。
厳密に言えばイヤーカフ型のAmbieなど、没入とは逆方向のコンセプトで作られた製品はあったが、完全ワイヤレス化と「iPhoneのユーザインターフェースを聴覚の領域にまで広げる」コンセプトは、他社に真似のできないものだった。
現在では、開放感のあるフルオープン型のパーソナルオーディオ機器は珍しい存在ではなく、どころか一つのトレンドにもなっているほどだ。