世界有数のエレキギターブランド、フェンダー。その代名詞でもある「ストラトキャスター」シリーズは2024年、70周年を迎えた。同社を率いるのは、ナイキでCMO、ディズニー・コンシューマー・プロダクツで会長を務めた経験をもつアンディー・ムーニーだ。15年にCEOに就任して以後、従来のエレキギターやアンプにとどまらず、アコースティックギターやエフェクター、デジタルアプリなど、新展開を加速させている。老舗ギターブランドをどう成長させているのか。戦略を聞いた。
──CEO就任から9年が経過した。会社の経営課題をどうとらえ、戦略を実行してきたのか。
アンディ・ムーニー(以下、ムーニー):CEOに就任して最初に経営幹部にした質問は、「誰が私たちのギターを買っているのか」だ。このことについて、社内の皆が意見をもっていたが、実は誰もデータをもっていなかった。そこで、この業界では過去最大といえるユーザーの調査プロジェクトを実施した。ここで得られた重要な洞察が、その後の会社のかたちをつくるうえで大いに役立った。
──どのような知見が得られたのか。
ムーニー:ひとつ目は、毎年販売するギターのうち45%の購入者が、初めてギターを手にする人で、想像していたよりもずっと高い割合だったことだ。しかも、そのうちの50%が女性だった。こうした初心者の多くが、アコースティックギターを最初に購入することも驚きだった。また、欧米ではギター初心者、特に女性にとって楽器店はハードルが高く、オンラインで購入している傾向も見られた。
もうひとつの重要な洞察は、初心者の90%は最初の1年、場合によっては90日間でギターの習得を諦めてしまうということだ。一方で、残り1割の人たちは、ギターを一生演奏し続け、顧客生涯価値(LTV)は1万ドルになることがわかった。つまり、業界の売り上げをけん引していたのは、真に熱心なプレイヤーということだ。
──具体的にどんな戦略を立てたのか。
ムーニー:初心者のプレイヤーは最初の1年間、機材よりもレッスンにかける費用のほうが多いということもわかった。そこで離脱率を下げることを目標に、学習プログラムの開発に注力した。例えば、離脱率を10%下げることができれば、一生使い続けるプレイヤーが倍増して、業界全体の規模を2倍に広げられる。それが今市場に投入している、オンライン学習アプリ「Fender Play」、デジタル・チューナー「Fender Tune」といったアプリをつくるきっかけになった。「Fender Tune」は16年8月に提供開始し、現在1000万近くダウンロードされていて、ユーザーがいつ、どれくらいの時間ギターを弾いているのかを正確に知ることができる。17年7月に提供開始した「Fender Play」は、ユーザーの平均利用期間が14カ月となっていて、楽器を長く使い続けるプレイヤーを増やすことにつながっている。