1921年創業の同社は、建築金物の卸売りを祖業とし、新築住宅の建設需要と共に発展してきたが、バブル崩壊後に新築住宅着工戸数は減少し始める。これからは高齢化と住宅リフォームの時代になる──。99年、マツ六は市場を先読みしてメーカー機能を強化し、当時まだ世の中になかった転倒防止用の手すりやスロープを開発。介護リフォーム工事に必要な建材をパッケージで扱おうと、トイレや浴室、階段など、工事別に必要な商品を揃えたカタログを制作した。
「FR」は、施工業者が専用サイトで注文して配送場所を指定すると、部材一つでも翌日に届けてくれるサービス。現場ごとに必要な部材が異なる施工業者は調達の手間を省くことができる。また、金物店・建材店を「販売特約店」とし、施工業者へのカタログ配布、代金を回収してもらう関係を構築。特約店は在庫を抱えることなく売り上げを立て適正な利益を受け取れる仕組みだ。「私たちは金物店や建材店とともに繁栄してきました。利害関係者がみなメリットを享受できる『協調互敬』が当社の経営理念。これを体現したかった」と3代目社長の松本將は言う。
着想の起点は、松本の母校の大学院で行われたある研究会だ。そこでは当時、隆盛を極めていたアスクル創業者の岩田彰一郎が講義していた。必要なものが必要なときに必要な分だけ手に入れられる仕組みに感嘆し、「これだ」と確信した松本は、岩田に修業させて欲しいと直談判。以来1年間、アスクルに通い詰めた。2004年に開始したFRには現在、全国900社以上の金物店・建材店、20000社以上の施工業者が登録。会社の業績はこの十数年、右肩上がりで伸び続け、24年3月期は204億円を計上した。
多くの協力者を得られたのは、協調互敬の精神に加えて、顧客の声を聞き、改善するサイクルが浸透しているからだ。マツ六では、営業や開発、品質管理など部署を問わず、従業員に対して現場での「探索」を課している。今ある8000点のほとんどが、顧客の要望から取り入れた商品だ。商品開発には毎年1億円を投じ、オリジナル手すり関連だけで3000点あり、年間70億円を稼ぎ出している。「困り事を一つひとつ丁寧に解決し続けて、顧客価値の連鎖を起こしてきたことが、私たちが地位を確立できた理由」と松本は言う。
日本では、25年に4人に1人が75歳以上になり、42年には65歳以上の人口がピークを迎える。「取り扱う商品やFRを利用者全員にとって良い状態にアップデートし続ければ業績は伸びていく。完成系はない。常に改良していきます」
まつもと・しょう◎1960年、大阪府生まれ。慶應義塾大学大学院修了。85年、シャープに入社。88年にマツ六入社。2000年に副社長に就任し、ファーストリフォーム事業の開発に取り組む。04年より現職。大阪商工会議所常議員、日本建築材料協会会長を務める。