経営・戦略

2024.09.29 11:30

鯖江の技術を世界へ、金子眼鏡の成長戦略と産地還元

金子真也|Japan Eyewear Holdings代表取締役社長

金子真也|Japan Eyewear Holdings代表取締役社長

「日本発のメガネブランドとして、世界市場を切り開くことで、産地の生産力を強化する」
advertisement

福井県鯖江市に本社を置くJapan Eyewear Holdings代表取締役社長の金子真也は、2023年11月に東証スタンダードに上場を果たした理由をこう説明する。同社は、メガネの企画から製造、卸、小売店販売まで一貫して行う。分業制が盛んな鯖江では稀有な製造小売り(SPA)企業だ。

21年、母体である金子眼鏡と、鯖江産のメガネを扱うブランド「999.9(フォーナインズ)」が経営統合して始動した。24年1月期の単価は「金子眼鏡」が7万3000円、「フォーナインズ」は7万9000円で、メガネの世界三大産地のひとつである鯖江の熟練したクラフトマンシップによる高品質、高価格帯が特徴。上場後初の連結決算である24年1月期は、売上高が前期比26%増の135億円、営業利益は同約1.7倍の37億円、純利益も同4倍の23億円と高成長を記録した。

「鯖江には世界に誇る『職人の技術』がある。一気通貫のビジネスで、技術を守り、価値を直接伝える。現在83店舗を展開する『金子眼鏡』では、高級感と居心地の良さを両立させたこだわりの店舗デザインと、優良立地への出店が功を奏し、売り上げの約9割を直営店で稼ぎ出しています」
advertisement

金子眼鏡の創業は1958年。父・鍾圭が始めたメガネの卸販売から事業を大きく転換したのが、2代目の真也だ。98年には直営店を開き小売り事業に参入。2006年までに自社製造を開始し、09年には鯖江には自社工場を設立した。200以上の製造工程を分業することで、コストを抑えて成長してきた産地の特性があるが、後継者不足により担い手がいなくなる可能性を考え、生産の内製化に取り組んできた。さらに職人の負担を減らすために、業界でもほとんど行っていない粗磨きの工程でロボットを導入。伝統ある職人技だけでなく、最新技術も取り入れながら産業を支える。

金子眼鏡は現在、鯖江に3カ所の自社工場を抱え、24年1月期は10万本を製造した。そして上場時に資金調達した約17億円を元手に、24年末には第4工場が竣工する予定だ。「統合シナジーとして、金子眼鏡の自社工場を活用し、フォーナインズの内製化にも取り組んでいく」(金子)。
 
今後の成長戦略として主に掲げているのは、両ブランドの国内新規出店やノウハウの共有による統合シナジー、そして冒頭の金子の言葉にあるような「世界展開」だ。現在、金子眼鏡ではフランス2店舗と中国で2店舗、フォーナインズでシンガポールに1店舗の直営店を運営している。

23年4月に開店した上海の直営店も好調。香港や台湾などにも出店し、早期に海外売上高比率を50%以上に高めたいとしている。さらに、「アジアで盤石の体制を築き、2030年代にはヨーロッパでの店舗拡大を目指す」と展開を見据える。

金子が長年、抱え続けてきた「産地が縮小し、職人がいなくなっていく状況をどうにかしたい」という願い。上場と世界市場への展開は、その実現に近づく大きな一歩になるのではないか。


金子真也◎1958年生まれ。中央大学卒業後、金子眼鏡入社。職人の名前を冠した自社ブランドの眼鏡フレーム「職人シリーズ」などを展開し、99年代表取締役社長に就職。2022年フォーナインズ取締役就任、23年5月Japan Eyewear Holdings代表取締役社長就任。

文=フォーブスジャパン編集部 写真=佐々木康

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事