蜷川さんのインスタレーション作品が展示されるのが、岡山県北西部に位置する新見市にある鍾乳洞「満奇洞(まきどう)」の洞内であることも話題を呼んでいる。
鍾乳洞は石灰岩が地表水、地下水などによって侵食されてできた洞窟だ。新見市南部にはカルスト台地が広がっており、複数の鍾乳洞が点在していることで知られる。
満奇洞は全長450メートルの鍾乳洞で、無数のつらら石や石柱、地底湖が広がり、刻々と移り変わる極彩色のライトが天然の造形を照らしている。そんななか来訪者はまるで謎解き脱出ゲームのプレイヤーのように奇想天外な地底王国の迷路を歩き続けることになる。
行くだけでワクワクする空間
芸術祭に先駆けて9月1日、展示スポットのひとつである津山市の作州民芸館で蜷川実花さんとアートディレクターの長谷川祐子さんによるトークイベントが開催され、アーティストとしての蜷川さんの魅力や創造力の源泉、今回の展示作品の構想などが語られた。長谷川さんは、蜷川さんについて「死の恐怖と隣り合わせの美と醜、人工と自然、フィクションとノンフィクションのはざまを表現する魔女のような存在」と評した。蜷川さんもそれに応えるかたちで「きっかけは演劇家の家で育ったこと」と、実父で演出家の蜷川幸雄(故人)さんとの子供時代のエピソードを交えつつ、「虚構の中で生きることは日常だった」と語った。
蜷川さんは、初めて目にした展示会場の満奇洞について「そこはまさに異界の入口。洞内に入る瞬間に空気が変わる。行くだけでワクワクする空間だ」とし、「長谷川さんは、(私のために)なんて面白い場所を考えてくださったのか。とても難しいけれど、チャレンジングな場所」とその印象を語った。
ここ数年、花をモチーフにしたインスタレーション作品を数々手がけてきた蜷川さんは、「満奇洞にある地底湖を黄泉の世界に見立て、ライティングも真っ赤にし、彼岸花を1000本埋めるような空間をつくろうと思っている」と作品の構想について話していた。
新見市を代表するもうひとつの鍾乳洞「井倉洞(いくらどう)」も作品展示の舞台となっている。1957(昭和32)年に偶然発見されたこの巨大な鍾乳洞は、全長1200メートル、高低差90メートルで、洞内にはさまざまな形状をした奇石や怪石、約50メートルの高さの頭上の岩穴から落ちる滝などがある。
満奇洞に比べてはるかに地中奥深くまで達することになり、いったん入ると出てくるまでにはおよそ40分はかかる。本格的な地底探検をしている気分になれる。