だからこそ、意志の力だけで衝動を制御することはできない。それができるなら、とっくにうまくいっているはずだ。それよりも、自分の「なぜ」に取り組むほうがよい。すなわち、自分が大事したい価値観に焦点を当て、その過程で自分自身に対して忍耐と思いやりを発揮するのだ。自分を力ずくで服従させることはできないが、愛情をもって徐々に導いていくことはできる。
2024年に学術誌Current Opinion in Psychologyに発表された研究では、セルフコントロールのうまい人は、3種類の戦略を活用できている点に違いがあると示唆されている。
この研究から、セルフコントロールを強化する主要な3戦略をご紹介しよう。
1. 環境戦略
環境戦略とは、セルフコントロールがうまくできるように環境を選んだり変えたりすることだ。意志の力だけを当てにするのでなく、周囲の環境を変えることで、誘惑を減らしたり、より健全な選択をしやすくしたりできる。たとえば、在宅で仕事をするあいだ、もっと有意義に時間を過ごしたいと思ったとしよう。しかし、リビングのテレビのそばで仕事をしていると、気が散ってしまうことが多い。最初はドラマを1話だけ見ようと思っても、すぐに一気見してしまい、仕事が進まずイライラする羽目になる。
これに対抗する方法は、テレビやその他の気が散るものが目に入らない静かな部屋に専用のワークスペースを作ることだ。環境を変え、テレビを見たくなる誘惑を減らし、集中力と生産性が向上する状況を整えるのだ。
このアプローチは、セルフコントロールを「常に自分の衝動と戦うこと」ではなく、「自分にとって良い環境を設計すること」に変えていくものだ。