世界展開という観点で、ふたりはもうひとつ大きな挑戦をしている。フランスの複合企業LVMHが主催するスタートアップ支援プログラム「LVMH Innovation Award 2024」に応募。ファイナリスト18社に選出され、「Employee Experience,Diversity & Inclusion」のカテゴリ賞を受賞したのだ。
「現在は現地法人を立ち上げて、パリのスタートアップ支援施設STATION FでLVMHのアクセラレーションプログラムを受けています。STATION Fには世界中からさまざまなスタートアップが集積していて、ネットワークをつくれる。また、LVMHにはブランドコントロールの卓越したノウハウがある。それを吸収してヘラルボニーを世界的なブランドに育てたい」(崇弥)
崇弥が世界展開への思いを語る一方で、文登は足元を見つめる大切さを強調する。原点の地である岩手では、ある重要建造物を障害のある人たちで管理するプロジェクトを計画中だ。
「ヘラルボニーの事業は、資本主義に寄り過ぎると搾取構造に見えてしまう。あくまでも僕たちは作家のほうを向かなくてはいけません。その基礎がもろくなると事業は簡単にひっくり返ります。社会から信頼されるには哲学が必要であり、僕らの場合は哲学の場所として岩手がある。作家だけでなく障害がある人たちも普通に働いて生きているということを岩手で体現して、マクロな視点とのバランスを取っていきたい」(文登)
パリを入り口とした世界展開と、岩手における草の根の事業。両極端に見えるが、双子だけあって根っこは同じだ。崇弥は、民藝運動を主導した河井寬次郎の言葉を引き合いに出してこう語った。
「河井は、調和が取れていないことが調和になると言いました。団地のように計画されたものではなく、それぞれが思い思いに家を建てた集落のほうが景色として調和が取れているという意味です。人間の活動も同じ。バラバラの視点でやっていても、それらを内包する力をもてば全体として調和が取れて、それがひとつのカルチャーになっていく。僕らの活動も後世の人が、いつか“ヘラルボニー運動”として認識する日がくる。そう信じています」