狙いが当たって、toBのコラボレーション案件が続々と舞い込んだ。JALや丸井グループだけではない。2022年10月には大阪・阪急うめだ本店をジャック。9階の広場には自社オリジナル商品のポップアップを出店したが、1階はロクシタン、2階はファミリア、3階はトゥモローランドというように、全フロアでブランドとコラボレーションを展開するまでになった。
ふたりが手ごたえを感じているのは量的な拡大だけではない。当初、企業コラボレーションは、CSRやSDGsといった視点からの利用が多く、カウンターパートもサステナビリティ関連部署が中心だった。それが事業部のマーケティング予算として普通に出るようになってきたのだ。
ヘラルボニーは企業と契約を結ぶ前に、原点の岩手に担当者を極力招くことにしている。アテンドは現在も岩手に住む文登の役割だ。
「るんびにい美術館や創業の地である祖母の家などを案内して、僕たちの思いを説明します。作家にも会っていただきますが、行く前は『障害のある人に会う』という意識だった方が、帰りには『〇〇さん、素敵だったね』と個人名になることが多い。障害があるから支援するのではなく、ひとりの作家として尊敬して、作品にも価値を感じるから一緒にビジネスをする。その流れができつつあるのはうれしい」
パリと岩手。両極端を内包してこそ文化
障害がある作家のアートとビジネスのエコシステムを構築しつつあるヘラルボニーだが、それは日本国内の話。世界ではまだこれからだ。もともと世界の視点は強くなかった。しかし23年5月、経産産業大臣のフランス視察に同行する日本のスタートアップ10社に選ばれた。そのときJETROのコーディネートで、アール・ブリュット(正規の美術教育を受けていない人による芸術)の世界的ギャラリスト、クリスチャン・バーストと面会。視野が広がった。
「僕らのビジネスモデルを説明したら、『この業界に30年以上いるが、初めて知った』『日本は障害がある人の社会包摂が遅れている印象だったが、日本で成立するなら世界でやれる』『日本語だけ?すぐ英語で発信しなさい!』と激励を受けました。帰国後、興奮して文登に『世界でやろう』と話したことを覚えています」(崇弥)