テクノロジー

2024.09.23 10:00

「木が牛の飼料に」日本の巨大フードテック知られざる全貌

この特性により、ルーメン環境の安定、食べた餌の消化率向上、繁殖成績の向上、乳脂肪分の向上などの効果が期待されるだけではなく、高い栄養価を誇り、粗繊維の消化率が97%、乾物のTDN(可消化養分総量)が95.6%という優れた数値を示している。

元気森森は、現行の飼料に置き換えるか、上乗せして使用することが可能であり、具体的な給与量は目的とする効果や現行の飼料設計に応じて調整できる。この新しいタイプの飼料は、牛の栄養管理において新たな選択肢を提供し、多くの注目を集めている。

日本製紙の技術はこれだけにとどまらない。セルロースナノファイバー(CNF)を用いた食品添加剤「セレンピア」もその一例である。セレンピアは、食感の改善、賞味期限の延長、少量の添加で高付加価値な食品をつくることができ、製造時の歩留まり改善によるフードロス削減に効果を発揮している。また、セレンピアはバイオマス資源を原料としているため、食料と競合せず持続可能な利用が可能である点も大きな特徴だ。

さらに、日本製紙は自社で適切に管理された日本国内の森林資源を活用しており、これにより国内の林業にも貢献し、循環型の資源利用を推進、実行している。この持続可能な木材資源の利用は社会全体での酸素循環を進めることにつながり、SDGsにも貢献する食品添加剤となっている。

ソフトバンクのAI技術力

ソフトバンクでは、特に養殖分野において、AIを用いた最適な給餌と漁獲量の推定精度向上に注力し、生産効率の問題や不安定な経営環境を改善している。また、魚の品質管理にも力を入れており、品質規格標準化プロジェクトを立ち上げ、魚の鮮度やうまみの測定手法の確立を目指している。「2024年問題」に対応し、品質を落とさずに輸送可能な冷凍魚の品質保証規格をつくり、データドリブンな品質管理を実現。また、トヨタグループ企業のトヨタテクニカルディベロップメントと共同で、牛の給餌量と出荷時期の最適化技術に向けての検証も実施するなど、第1次産業の活性化、生産性向上、環境負荷の低減を目指している。
グループ全体で取り組むソフトバンクの養殖事業。うまみ指標の確立に向けて品質規格標準化を目指す。

グループ全体で取り組むソフトバンクの養殖事業。うまみ指標の確立に向けて品質規格標準化を目指す。

さらに、ソフトバンクのグループの関連企業として、国内最大級のミニトマト生産施設を運営する「たねまき常総」は茨城県常総市に位置し、敷地面積は約7ヘクタールという広大なスペースで年間約1000tの生産能力をもち、日本最大級のミニトマト生産拠点となっている。

この施設には、1日約5tの選果能力をもつ先進的な選果設備が備わっており、ハウス内はコンピュータ制御による24時間体制の環境管理が行われている。気温、湿度、CO2濃度などをセンサーで感知し、最適な栽培環境を維持するなどのエネルギー効率と環境配慮も重要なポイントだ。また、液化天然ガス(LNG)を利用した自家発電を採用し、環境負荷を低減している。そのLNG燃焼で生じたCO2を作物の光合成に有効利用することで、資源の無駄をなくしている。
たねまきの収穫ロボット。環境制御から収穫、労務管理までソフト・ハード両面でテクノロジー化を進める。安定糖度、安定出荷を実現。

たねまきの収穫ロボット。環境制御から収穫、労務管理までソフト・ハード両面でテクノロジー化を進める。安定糖度、安定出荷を実現。

さらに、収穫後の糖度・酸度測定、パック詰め、出荷用資材の組み立てなど、ほぼすべての作業が自動化されている。この自動化により、生産効率が飛躍的に向上し、高品質なミニトマトの安定供給が可能となっている。独自のシステム開発にも力を入れており、労務や作業管理に関するシステムを自社開発することで、働きやすい環境づくりと栽培データの蓄積を行っている。このシステムにより、「経験や勘」に頼る従来の農業から、誰でも働くことのできる持続可能な農業への変革を目指している。
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文=大野泰敬

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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