テクノロジー

2024.09.23 10:00

「木が牛の飼料に」日本の巨大フードテック知られざる全貌

木から生まれた牛のエサ「元気森森(R)」は日本製紙の製紙技術から生まれた高エネルギーで高い消化率を持つ画期的なエサだ。

木から生まれた牛のエサ「元気森森(R)」は日本製紙の製紙技術から生まれた高エネルギーで高い消化率を持つ画期的なエサだ。

増え続ける世界の人口。待ったなしの食料問題。実は日本は問題解決にいくつもの回答をもつ。意外なプレイヤーたちが登場しているのだ。


世界のフードテックを牽引するITの巨人達

ビル・ゲイツ、ジャック・マー、そしてグーグル、テンセント。テクノロジー時代の主役たちに共通するある特徴をご存じだろうか。
 
それは「食」だ。じつは今、巨大テック企業が大きく投資をしているのが食の領域だ。フードテックおよびアグリテックは、海外で急速に成長しつつある大規模なビジネス分野となっている。農林水産省の調査によると、近年、世界のフードテック分野への投資が急速に拡大している。2021年には、コロナ禍によるフードデリバリーやデジタルサービス等への投資が増加し、532億ドルと過去最高を記録した。しかし、22年にはウクライナ侵攻の影響により、スタートアップ投資の状況が悪化し、投資額は減少したものの、過去10年間で投資額は約10倍に増加し、296億ドルと依然として高い水準で成長し続けている。

特に、上述したビル・ゲイツやジャック・マーといった著名な経営者、そしてグーグル、アリババ、マイクロソフトといった大手IT企業が、農業、畜産、養殖といった一次産業に数千億円から数兆円規模の投資を行い、次々と参入している。その背景には、食糧危機への危機感が大きな要因にある。

日本も同様に、エネルギーコストや原材料費の高騰、労働人口の減少といった課題が食の生産に深刻な影響を及ぼし始めている。日本政府は食料安全保障の強化を目的に、食料・農業・農村基本法の見直しを実施し、また新たに「食料供給困難事態対策法」が24年6月14日に参議院本会議で可決・成立した。これにより、食料不足の兆候が見られた場合には対策本部の設置や事業者への指示が可能となるなど、状況を深刻に捉えている様子がうかがえる。

全世界的な食糧危機への意識からフードテックへの投資が望まれる環境にある。しかし、フードテックはコストの問題が付きまとい、もうからないといわれることも多い。そんななかで、この課題に果敢に取り組む日本の企業も存在する。長い歴史のなかで培われた技術やAIなどの最新技術を駆使した食の技術が、今世界からも注目されている。特に、優れた技術をもち、地域に根ざした中小企業や大手企業の動きが活発化している。表には出づらく、しかし特筆する技術をもつ彼らを「ニンジャカンパニー」と呼ぼう。

今回、特に注目すべき代表的な3社を紹介する。これらの企業は、フードテックの課題を乗り越え、持続可能な未来を目指している。

日本製紙のスーパーフードテック

意外に思われるかもしれないが、もし日本で最も優れたフードテック企業を一社挙げるなら、間違いなく日本製紙を推奨する。理由は、優れた技術力、生産体制、そして確固たるビジネス実績があるからだ。

日本製紙のフードテック技術はさまざまなものがあるが、なかでも注目なのが木材を活用しながら牛の飼料や食品添加物をつくれることだ。

木材チップを蒸解して得られたセルロースを利用してつくられた「元気森森」という飼料は、牛の健康増進、乳量増加、病気予防、繁殖率向上に大きく貢献している。

濃厚飼料と粗飼料のハイブリッド的な特性をもつ飼料としても注目されており、具体的には、エネルギー摂取効率が高い濃厚飼料の特徴と、繊維質の緩やかな消化・吸収を提供する粗飼料の特徴を兼ね備えている点が特徴だ。日本製紙の製紙技術を応用し、木材から牛が消化できる繊維(セルロース)だけを取り出して製造されている。
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文=大野泰敬

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