過ぎ去った「盛り」、いや2024年の夏が米国でコロナの夏と呼ばれたのは、感染者が2022年7月以降で最も急増したとみられるためだ。これは米疾病対策センター(CDC)の下水データに基づいている。現在、実際の感染者数を推定するうえで頼りになるデータはこれしかない。いまでは検査を受ける人が少なくなっていて、検査を受けた人でも結果を報告しないことはよくあるので、報告される感染者数は基本的に実際の感染者数よりもかなり少ないはずだ。
この夏の感染者急増は、「FLiRT」と通称される変異株(「浮気者」のことではない)、とりわけ「KP.3.1.1」と「KP.3」によって引き起こされた。感染予防対策をとる人が少なくなっていることも感染拡大の要因になったと考えられる。たとえば、人が集まる場所でマスクを着用する人はかなり減っている。N95マスクは新型コロナウイルスの伝染を抑制できると研究ではっきり示されているのだが、マスク着用はもはやスキニージーンズのようにすたれつつあるようだ。
6月上旬に増え始めたとみられる米国の感染者数は、秋口の現在は減少に転じているのかもしれない。ただ、この文で強調したいのは、最後の「かもしれない」という部分だ。というのも、新型コロナの出現から5年たちながら、米国には感染がどこでどのように拡大しているのかをより正確に追跡できる、信頼できる監視システムがないからだ。
確かなのは、新型コロナはなくなっていないということである。パンデミック(世界的大流行)の最初の2年間に比べると、大半の人はワクチン接種や以前の感染で免疫ができているので、重症化リスクは大幅に下がっている。それでも入院者はなお出ているし、罹患後、後遺症が長引く「長期コロナ(Long COVID)」の症状を呈するリスクもある。