東京に生きる20代のリアルを描いた『明け方の若者たち』で小説家デビューし、6月に長編3作目となる『ブルーマリッジ』を出版したカツセマサヒコ。『告白』『君の名は。』『怪物』など、時代を切り取る作品を生み出してきたフィルムメーカーで小説家の川村元気。川村は9月に小説『私の馬』の発売を控える。対談は、2人の近著の話題から始まった──。
カツセ:『ブルーマリッジ』と『私の馬』との共通点があるとしたら、「ディスコミュニケーション」なのかなと思いました。
『ブルーマリッジ』は、パワハラやモラハラなど、現代社会で目を背けられなくなっている問題と加害者たちの葛藤を、20代と50代の2人の男性を軸に描いた作品です。このテーマで書こうと思った背景には、日常生活の中で感じていた「ディスコミュニケーション」がありました。
発端は、政治家が何の悪気もなく差別的な発言をして炎上し、形式上謝るといったニュースを頻繁に目にしていることへの違和感です。「どうしてこの人たちは、自分が責められている理由や原因を考えないのだろうか」「なぜ他責思考でいられるのだろうか」と画面越しに考えていたんですが、あの無自覚な加害性は、自分にも当てはまるところがあると思い直しました。
7~8年ぐらい前から少しずつジェンダーやフェミニズムに関する知識が自分にインストールされていくなかで、過去の言動を省みる機会が増えてきました。「あのときの発言は、差別的だったり相手を傷つけたりするものだったのではないか」と。「自分だけは加害者になんかならない」と胸を張って言えるような自信は消えました。
過去の加害は「時代のせいだから」といって、全部なしにできるわけじゃない。そこに被害者がいたという事実を受け止めて向き合わないと思い、3年前からこの小説を書き始めました。
川村:『ブルーマリッジ』では、世代の違うふたりの男性が、どちらも同じような問題を抱えているのがわかってくる。今の時代、たくさんの情報に触れて皆が賢くなったのかと思いきや、むしろ愚かさが浮き彫りになっているというのが実態かもしれないですね。