バズらなければ言葉が届かない時代に、人を動かす「語り」とは何だろうか。新著『スピード・バイブス・パンチライン』で紐解いた「勝つためのしゃべり論」とは。
SNSのアルゴリズムが精緻化され、プラットフォーム特性に合わせたコンテンツの最適化も極まった2024年、その傾向を極限まで突き詰めたうえで物語展開を組み合わせた「ショートドラマ」なるものが大ヒットしている。つまりは1~3分ほどの短い尺でテンポよくつくられた縦型実写ドラマのことで、タイパを重視する現代人にハマった。最近は大量の作品が供給され、その過熱ぶりによって「ショートドラマ」というワードはTikTok上半期トレンド大賞2024にも選出されたばかりだ。企業もプロモーションに活用しようと、クリエイティブ制作に着手し始めた。このままいくと、29年にはおよそ8兆7000億円まで市場規模が拡大するといわれている(YH Research調べ)。
ショートドラマのヒットは、現代の情報空間の「密度」が行き着くところまで行き着いてしまったことを示している。インターネット上に所狭しと敷き詰められた広告、次々と展開されるテキストと動画の応酬、バズ狙いの過激なポスト──膨大な量の情報が私たちの視覚や聴覚を波状攻撃のように襲い、もはやノイズと化し、真実か否かもわからないままフェイクニュースやbot、スパムと一緒くたになってカオスを生むような今の状況。そのような環境下で、近年はドラマや音楽といったエンターテインメントもアテンション重視のつくりが主流になっていった。いかに短い時間で瞬間的に視聴者の関心を引くか、いかに起承転結をギュッと凝縮したような展開で最後まで引っ張れるか。
同時に、テクノロジーの進化によって、そういった条件を備えたコンテンツがいとも簡単につくれるようになったのも大きい。「それっぽい」コンテンツがあふれ、どうやって興味を引くかというアテンション合戦になってしまい皆が疲弊しつつあるなかで、ショートドラマはその究極として現れた。
では、具体的にどういった点が究極なのだろうか。それは、人類の認知能力の限界に到達するかのような高密度な情報戦のなかにおいて、すぐに伝わり心をつかむ「スピード」、演技する生身の人と物語とが織りなす「バイブス」、インパクトがあり記憶に残るような「パンチライン」という3つのポイントに宿っている。今、人々を夢中にさせているショートドラマ作品を紐解くと、必ずその3点が巧みな演技や編集によって磨かれているのだ。