2018年にリーセンと12人のチームは、仕事を辞めて、持ち寄った資金で会社を立ち上げた。彼らの追い風となったのは、YouTubeで公開したデモ動画がEASAの関係者の目にとまり、当局のアドバイスを受けられたことだった。パンデミックの間にリーセンと27人の従業員は、オフィスで寝泊まりしながら開発を続けた。
航空分野では、他にもVRを用いたシミュレーターを開発中の企業があるが、リーセンは、自社のデバイスに品質面での優位性があり、既存のメーカーよりも大きなリードを持っていると信じている。
カナダ大手のCAEは、2019年に軍事訓練用のVRデバイスを発表し、2022年には電動エアタクシー用のMR(混合現実)シミュレーターを開発中だと発表した。また、米国の航空機メーカーTextron(テキストロン)傘下のTRUは、今年2月に505ヘリコプター向けのVR訓練システムを発表し、FAAとEASAの承認を目指している。
しかし、リーセンは、これらの大手が既存のビジネスの邪魔になるような新製品を開発する意欲がほとんどないと考えている。さらにこの2社のVRデバイスは、十分な解像度を持っておらず、ゼロからの出発を余儀なくされているという。また、CAEとTRUはエピック・ゲームズのアンリアル・エンジンを採用しているが、リーセンはこの取り組みがその場しのぎのものだと考えている。
しかし、ヘリコプターの訓練グループの会長であるパーマーは、Loftには多くの課題が待ち受けていると見ている。競合他社は、レベルDシミュレーター事業を守るためにFAAに強い圧力をかけるだろう。彼らは、2009年に49名が死亡したコルガン航空3407便の墜落事故を最後に、乗客の死亡を伴う致命的な事故を発生させていない訓練システムを変えないよう主張する強力な論拠を持っているからだ。 さらに、LoftがFAAを説得するのは困難だろうとパーマーは考えている。FAAは、レベルDシミュレーターの主要要件を「コックピットが実際の航空機と全く同じ外観、感触、機能を持つこと」としており、VRがこの要件を満たすのが困難であることから、「FAAは航空会社の訓練向けにVRを決して承認しないだろう」と彼女は語った。パーマーは、Loftが航空会社に受け入れられる可能性があるのは、「操作手順の訓練やテストパイロットの採用試験」のみだと考えている。
それでもなおリーセンは希望を捨てておらず、これまで航空当局と自社のシミュレーターの認定を進める中で、今後の課題がすべて明確になったと述べている。
「私たちは数百もの不確実性を抱えていましたが、今ではすべてが明確です。スイスで使われるドイツ語には、大きな岩が心から取り除かれたという表現がありますが、今はまさにそんな気持ちです」とリーセンは語った。
(forbes.com 原文)