安野はまさに博覧強記、「令和のダ・ヴィンチ」だ。
東京大学松尾豊研究室出身。卒業後はボストン・コンサルティング・グループにジョインするが、その後M-1グランプリにロボット漫才で出場、LLM(大規模言語モデル)を応用実装する企業などを連続起業する。さらにロイヤル・カレッジ・オブ・アートでは生成AIも駆使して準修士を取得、さらには執筆したSF小説で新人賞受賞するという快挙の連続。それだけではない。東大薬学部出身のデザイナー山根有紀也とのアートコレクティブ「実験東京」ではまったく新しいAIアートを発表し続ける。
前述の都知事選では自らの政策を学習させた「AIあんの」が選挙期間中、6200件以上の質問に回答した。AIを駆使して有権者の声を聞き取る「ブロードリスニング型」の選挙戦には台湾の元デジタル発展省大臣であるオードリー・タンも「デジタル民主主義実現」実験場の可能性を感じ、評価した。
安野氏に以下、第9回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞のSF小説『サーキット・スイッチャー』(2022年、早川書房刊)について、AIと人間の未来についてなどを聞いた(山根氏も同席)。
※文化やクリエイティブ領域の活動で新しい試みを展開し、豊かな世界を実現しようとする人たち(カルチャープレナー、文化起業家)に贈られるアワード
人類滅亡リスクにAIは吉か凶か
──:ご著書『サーキット・スイッチャー』に登場する自動車会社社長の松木康光が、「新しい文化を受け入れる時にゼロリスクはあり得ない」と言っています。われわれがAI技術全般を受け入れる時に取るべきリスクとは一体なんでしょうか。
安野貴博(以降、安野):複数のレイヤーで様々なリスクがあると思っています。まず、やはり人類滅亡リスクを主張をする専門家がいます。もっとも大きな話をすれば、そのリスクは否定はできないでしょう。
人類滅亡リスクを取ってはいけないと主張する彼ら「AIドゥーマー」たちと、リスクを取ってもAIで世の中を便利にするべきだという人たちがいます。
私は後者です。なぜかというと、AIを使わず、 その領域の技術を発展させない選択をした場合にも、人類滅亡リスクはあると思っているからです。