アントニー・ブリンケン米国務長官は、イランによるロシアへの弾道ミサイル供与はロシアがウクライナで拡大して2年半あまりたつ戦争を「著しくエスカレートさせるもの」だと警告している。
たしかにこれはウクライナにとって悪い事態だが、最悪の事態とまでは言えないだろう。Fath-360は小型の短距離ミサイルであり、200発という最初の供与数も、ロシア軍が2022年2月以来、ウクライナの都市に向けて発射してきたミサイルがおよそ1万発、自爆型のドローン(無人機)が数千機にのぼることを考えれば、それほど多いものではない。
イランとのFath-360の取引はロシアにとって裏目に出る可能性も十分ある。ウクライナ軍が保有する最も高性能な西側製弾薬について、供与国の米国などはロシア国内の目標に対する使用を制限してきたが、この取引が制限解除に向けた決定打になるかもしれない。実際、イラン製ミサイルがロシアに到着するなかで状況に変化の兆しも出ている。
Fath-360は衛星誘導の弾道ミサイルで、6輪トラックに搭載される2発、3発、4発、もしくは6発用のコンテナから発射される。重量は790kg弱、射程は120km程度だ。
比較のための数字を挙げると、ロシア製イスカンデル弾道ミサイルは重量3800kg、射程は最長のもので500kmだ。ロシアが北朝鮮から供与されているKN-23弾頭ミサイルは重量3400kg、射程は900kmあるとも言われる。
一方、ウクライナ側が使用しているミサイルでは、米国製高機動ロケット砲システム(HIMARS)の主弾薬であるM30/31ミサイル(ロケット弾)が重量320kg、射程90km、同じくHIMARSなどから発射されるATACMS弾道ミサイルは重量最大1670kg、射程300kmとなっている。
つまり、Fath-360はイスカンデルやKN-23、ATACMSと同じクラスではなく、M30/31よりやや大きく、やや多くまで飛ぶミサイルという位置づけになる。