Coral Capitalでもこのような大型の資金調達ラウンドに数多く関わってきましたが、その中で起業家やCFOからよく耳にした希望が、「IPO後も株式を長期にわたって保有してくれる上場投資家から資金を調達したい」というものです。しかし、この場合の「長期」とは、具体的にどの程度の期間を意味するのでしょうか。
上場市場における株式保有期間の現実
投資家によって戦略は様々ですが、「長期志向」とされる上場投資家のほとんどは、一般的に1~4年間ポジションを保有します。流動性の制約により、保有期間が自然と長くなるプライベートマーケットとは対照的です。上場市場は、ポジションを売却する上で、プライベートマーケットと比べてはるかに柔軟性が高いです。投資している企業に対する期待が薄れたときや、資金を再配分したいとき、または自身の投資家に資金を返還しなければならないときなど、様々な理由で株を速やかに売却することができるのです。長期的に株を保有し続けなければならない義務もなく、ビジネスとして株を運用しているのですから、リターンを最大化するために動くのは当然のことです。「クロスオーバー投資家」のマーケティングピッチ
では、スタートアップが抱く長期保有の期待はどこから来ているのでしょうか。実は「クロスオーバー投資家」、つまりプライベートマーケットにも投資する上場投資家の多くのマーケティングピッチの一部なのです。空売り中心で、いわゆるショートポジションを取る短期投資家と差別化するために、自らを「ロングオンリー」のヘッジファンドとしてブランディングしているケースも多いです。そしてスタートアップに対し、IPO後も株式を保有し続けるつもりだと説明するのです。最初はその意図で投資するのかもしれませんが、実際に保有しつづける保証はなく、スタートアップの経営陣が想像しているよりもはるかに短い保有期間で終わることが多いでしょう。また、ヘッジファンドの場合、必ずしも運用会社の判断だけで保有か売却かを決められるわけではありません。ヘッジファンドには独自の投資家基盤があり、投資家に償還を求められたら応じなければならないからです。償還の条件はさまざまですが、一般的には四半期ごとに償還の機会があります。つまり、ヘッジファンドに投資した投資家は、同じ年内に資金の返還を求めることができるのです。そして投資家に償還を求められた場合、ヘッジファンドはそれに応じるしかありません。これは、VCファンドが通常、ファンド組成から10~12年間はファンド出資者が資金を引き出せない契約を結んでいるのとは極めて対照的です。