「スロー」はラグジュアリーなのか プロセスと結果の関係とは

MIGO for Benchmark. Photo: Jason Yates

MIGO for Benchmark. Photo: Jason Yates

コロナ禍を経て数年、日本では「スローライフ」「丁寧な暮らし」という言葉をよく聞くようになりました。その示すところを調べていくと、「ゆとりがあること」「自分らしくあること」「ものを大切に、自然を大切にすること」「健康であること」など、かなり広義なようです。

UCC上島珈琲が2023年に行った『丁寧な暮らしに関する調査』によると、丁寧な暮らしのイメージとは、「手間も時間もかけて、自分のこだわりのことをしている生活」だそうです。この調査では約3割の人が丁寧な暮らしを実践したことがあると答えた一方で、その4人に1人が手間に疲れた、金銭的・時間的に続かなくなったといった「丁寧な暮らし疲れ」を感じて諦めてしまったと言います。

「丁寧になること」「スローになること」とは、言葉の聞こえとは裏腹に、持続するのが難しいアクションだということでしょうか。そもそも「スローになる」と「自分のこだわりを実現する」は同義で使われるべきなのでしょうか。

今回はそんな質問を投げかけたい、ある1人のデザイナーにインタビューしました。
Photo: Ina Niehoff

Photo: Ina Niehoff

長年の友人であるベルリン在住のデザイナー、パスカル・ヒーンです。彼は、人間工学に基づいたオフィスチェアで世界をリードする家具メーカー「Steelcase(スチールケース)」と、ベルリンを拠点とする世界的デザイナー、コンスタンチン・グルチッチのもとでの経験を経て、2023年に独立しました。

彼は自身のスタジオ立ち上げに合わせて、「謙虚」「オープン」「スロー」という3つのデザインプリンシプルを掲げました。「この3つは自分を表すものですが、こうありつづけたいという願望でもあります」と語る彼は、スローには「良くできたものをつくる」という意味が込められていると言います。

「家具の世界にとって『良くできたものをつくる』というのは、プロセス全体を通して、細心の注意を払って継続的により良くしていくこと。スローという言葉が表現するのは、ものの質を良くしていくことだけでなく、クライアントや顧客との関係性を時間をかけて良くしていくということも含まれます」
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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