「もし、女性が彼と連絡を取り合い、お礼を言うまでになったらどうなるだろう? もし彼女が彼をデートに誘ったら? 付き合ったら? 彼は殺し屋というペルソナに囚われているが、彼女との関係においては楽しんでいるので、それでいい。だから奇妙なボディスイッチ・コメディになったのです」
またリンクレイター監督は、冒頭から主人公のゲイリーに、19世紀の思想家であるニーチェの言葉から引用して、「最大の成果や喜びを得る秘訣は——人生を危険にさらすこと」だと語らせている。
コメディではあるが、随所にシリアスなテーマも織り込んでいるのは、いかにもリンクレイター監督らしい。そのような一面が、この監督の作品を筆者が追い続ける理由のひとつなのだ。
「ゲイリーは、自分が創り出したもうひとりのキャラクターが本当に好きなことに気づきます。私たちの多くは、他の人格に順応し、成り切ることには抵抗がないと思いますが、自分自身から抜けきることはできません。この作品はまさにその研究です。私にとってはアイデンティティについての映画です」
リンクレイター監督は「ヒットマン」という作品について、このように語る。コメディのかたちはとっているものの、根底には監督なりの深い考えが存在していることが、作品の見ごたえのひとつになっていることは間違いない。
最後に付け加えておきたいが、「ヒットマン」ではスマートフォンの斬新な使い方が披露されている。たぶんそのようなシチュエーションになることは人生においてあまりないとは思うが、なるほどそのアイディアに感心した。観てのお楽しみだ。
連載 : シネマ未来鏡
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