映画

2024.09.13 14:15

映画「ヒットマン」 オトリ捜査の殺し屋役をモデルにした異色のラブコメ

リンクレイター監督は当初、この記事を映画化するためには何を核とするかで迷ったと語っている。

「もし、女性が彼と連絡を取り合い、お礼を言うまでになったらどうなるだろう? もし彼女が彼をデートに誘ったら? 付き合ったら? 彼は殺し屋というペルソナに囚われているが、彼女との関係においては楽しんでいるので、それでいい。だから奇妙なボディスイッチ・コメディになったのです」

またリンクレイター監督は、冒頭から主人公のゲイリーに、19世紀の思想家であるニーチェの言葉から引用して、「最大の成果や喜びを得る秘訣は——人生を危険にさらすこと」だと語らせている。

コメディではあるが、随所にシリアスなテーマも織り込んでいるのは、いかにもリンクレイター監督らしい。そのような一面が、この監督の作品を筆者が追い続ける理由のひとつなのだ。

「ゲイリーは、自分が創り出したもうひとりのキャラクターが本当に好きなことに気づきます。私たちの多くは、他の人格に順応し、成り切ることには抵抗がないと思いますが、自分自身から抜けきることはできません。この作品はまさにその研究です。私にとってはアイデンティティについての映画です」

リンクレイター監督は「ヒットマン」という作品について、このように語る。コメディのかたちはとっているものの、根底には監督なりの深い考えが存在していることが、作品の見ごたえのひとつになっていることは間違いない。

最後に付け加えておきたいが、「ヒットマン」ではスマートフォンの斬新な使い方が披露されている。たぶんそのようなシチュエーションになることは人生においてあまりないとは思うが、なるほどそのアイディアに感心した。観てのお楽しみだ。

連載 : シネマ未来鏡
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文=稲垣伸寿

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