海外

2024.09.20 17:45

豪5兆円企業Canvaは、なぜ社員の「ランチタイム」を大切にするのか

無料の昼食が食べられるシドニー本社の屋上テラス。屋上からの眺めと賑やかな人声、開放的な雰囲気でパーティにいるような気分になるが、食事を終えた人は波が引くようにオフィスに戻っていく。

無料の昼食が食べられるシドニー本社の屋上テラス。屋上からの眺めと賑やかな人声、開放的な雰囲気でパーティにいるような気分になるが、食事を終えた人は波が引くようにオフィスに戻っていく。

「デザインの民主化」で急成長を遂げたオーストラリアの新進テック企業「Canva」。同社が手がけるデザインソフトは、全世界で1億9000万人以上の月間アクティブユーザーを獲得している。売上高は年間23億ドル(約3380億円)を超え、企業価値は390億ドル(約5兆7400億円)に達する。
 
毎週2桁の人材を新たに雇用して拡大を続けるが、社内では現在も、創業時から続く「神聖なる昼食時間」という習慣を大切に守る。

発売中のForbes JAPAN別冊『WORK MILL』では、Canvaのシドニー本社に潜入取材。その日常に、個の才能をつなぎ最強のチームをつくるヒントを垣間見た。


デザインプラットフォームで世界を席巻し、オーストラリアを代表するユニコーンとなった「Canva」の本社だ、と気負って訪問すると肩透かしを食う。

高層ビルが立ち並ぶシティからやや離れた、静かな住宅街の一角に建つ地味なビル。ここが正面玄関のはずがない、ほかにあるはずだと建物の周囲を探して回るが、業者の搬入口のような狭い入り口しか見当たらない。訝りながら扉を開けると、喧騒が押し寄せてきた。

シドニー本社の総合受付。5兆円企業とは思えないほどこぢんまりとしているが、温かく出迎えてくれる。

シドニー本社の総合受付。5兆円企業とは思えないほどこぢんまりとしているが、温かく出迎えてくれる。

受付のすぐ横は社員食堂だった。無料で供される朝食の真っ最中で、大勢の人でごった返していた。各自がビュッフェ形式のパンケーキやフルーツを大量に皿に盛り付けて席に着く。成長企業に見られるテンポの良さとエネルギー。ビジネスが朝型で進むオーストラリアで、おいしいコーヒーとフレッシュな朝食は、欠かせない一日の活力源だ。

「この朝食を目当てに出社してくる社員も多いんですよ」

広報担当のマディソン・コルゲートが現れ、説明してくれた。Canvaでは今、4人に1人がリモートワークだという。

「フルリモート、ハイブリッドの人もいて、働き方はさまざまです。出社について厳しい決まりはありません」

業務に支障さえなければ、その人の意向が尊重される。オフィス勤務を希望する場合は、社内システムで自分のデスクを事前に予約する。そのデータを元に、社食の厨房はおおよその人数を把握して食事を用意する仕組みになっている。

活気あふれる社食にいると、コルゲートとの会話の声も、否が応でも大きくなる。専門のバリスタもいて人気のカフェに来たかのようだが、違うところは、各所に設置された大型スクリーンだろう。会社の新たな取り組みやイベント、その月の業績目標達成率といったオフィシャルな告知から、クラブ活動、社員の記念日や誕生日まで、社内ニュースが絶え間なく映し出される。

「会社で今、何が起きているかがすぐわかります。たまにしか出社しない社員にとっては出社時の情報源になるし、席が隣り合った人と会話するきっかけにもなります。目に入った活動やプロジェクトを話題にすることで、社員同士の交流も広がります」

オンラインで告知するより、このほうがはるかに効果的なのだという。社員が日常的に集う場と機会を存分に活用し、視覚に訴える。ビジュアルコンテンツの会社だけあって、こうした手法にはさすがに長けている。もちろん、社食にふさわしい情報も掲示しているとコルゲートは付け加えた。

「献立カレンダーを見て出社日を決める人もいますからね」

提供する食材は地元産にこだわるなど、社食も企業理念に沿って運営されている。

提供する食材は地元産にこだわるなど、社食も企業理念に沿って運営されている。

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文=平林純子 写真=佐々木 康

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