IBMは8月末に、中国法人の従業員を集めたオンライン会議で一部事業の閉鎖を明らかにした。同社は中国の研究開発(R&D)部門を閉鎖する。その穴を埋めるために、インドで研究者とエンジニアを増やすつもりだ。中国法人の何人の従業員に移籍の声がかかったのかは明らかではない。
中国市場に参入した40年前、IBMは中国を主要な成長市場だとみていた。しばらくの間、同社は中国で最大の電気通信事業者の1社で、現地の大手行やエネルギー企業を顧客としていた。だがこのところ事業は低迷、収益はここ2年落ち込んでいる。
事業閉鎖の発表の際、IBMは最近の収益の低下だけが理由ではないと説明。同社の広報担当者は、中国では人件費がインドやアジアの他の地域よりもはるかに速いスピードで上昇していると強調した。
また、近年は競争によりIBMの市場シェアは落ちている。これははるかに洗練された技術を競うようになっていることもあるが、それ以上にいわゆる「米国排除」キャンペーンの下、中国政府が政府機関や国有企業に対して外国メーカーの機器を国産品に替えるよう命じていることが大きく響いている。
一方で、中国政府が安全保障面で手綱をさらに強めたことで、IBMの中国事業への政府の介入が増え、それにともない事業コストも上昇している。こうした支障が中国で生じる一方で、米政府は中国で事業を展開する米企業、特に人工知能(AI)のような戦略的分野の企業の監視を強めている。大局的には、米中間の緊張の高まりが不確実性を高めている。
IBMの前に、米国をはじめとするさまざまな国の多くの企業が中国事業の一部またはすべてを閉鎖し、アジアの他の場所に移転させたりしてきた。そうした企業には電動工具メーカーのブラック・アンド・デッカー、スポーツ用品大手のナイキ、玩具メーカーのハズブロ、家電メーカーのLGエレクトロニクス、シャープといった有名企業が含まれている。
より重みがあるのは中国事業を縮小した大手テック企業の数だ。アップル、デル、ヒューレット・パッカード、インテル、グーグル、オラクル、クアンタ・コンピュータなどで、これらはほんの一部だ。合計で30社近くが中国から完全または部分的に撤退している。そうした決断に至った理由はそれぞれだが、IBMが指摘した点は全社が共有するものだ。
近年、中国のビジネスとテクノロジーはかなり洗練されてきているため、IBMの技術やビジネスのノウハウが失われたとしても、中国経済への打撃はかつてのようには大きくない。撤退した他の米国企業にも同じことが言える。とはいえ、こうした米国企業の撤退は中国経済から何かを奪っている。深刻な問題を抱える中国経済の役に立つかもしれない何かだ。撤退の理由のほとんどは中国政府の動きと関係があることから、習国家主席は自身の政策が国に害を与えていることをわかっているのだろうかと首をひねらざるを得ない。
(forbes.com 原文)