サービス開始1年半で約40万回利用されたこのスタートアップは、京都美術工芸大学卒の坂木茜音と、メルカリで新規事業開発を経験した片山大地が共同創業したスタジオプレーリーだ。
世界一の名刺消費国と言われる日本。「名刺は肩書きを示すもの」という固定概念を疑問視するスタジオプレーリーは、そのアップデートを目指す。「名刺交換は日本らしい文化。問題解決をしながら出会いの文化をイノベーションしたい」と話す坂木は起業家であり、アーティストでもある。そして、このイノベーションは大学でもIT企業でもなく、北千住の「アサヒ荘」という古い一軒家で誕生した。
「肩書き以上の自分」を交換
プレーリーカードは、肩書き以上の自分を交換できるデジタル名刺だ。勤務先の情報に限らず、これまでのキャリア、副業、趣味など、ビジネスとプライベートを分けずに情報を交換することができる。アプリは不要で、自分やペットの写真、気に入ったイラストなど、オリジナルデザインの名刺カードをWebで簡単に作成できる。デザイン性の高さに加え、肩書きにとらわれずに自分を深く知ってもらえる体験が、転職やパラレルワークが増えてきた働き方に上手くフィットした。
一度作れば、一生使える。紙資源を無駄にすることもなく、脱炭素の文脈にも合う。こうした社会背景の追い風もあり、最近では個人の愛用者だけでなく自治体や法人からもオファーが増えている。
しかし、このプレーリーカードは「紙がもったいないからデジタル化したい」などの課題ドリブンで生まれたビジネスではない。出会いの文化のアップデートが原動力になっている。
名刺交換する機会が多い日本では、人と人が出会う時、時間を取ってくれたお礼の気持ちを込めて頭を下げ、ものを交換するという行為がある。この文化を改めて考えた時に、「名刺は紙でなくてはいけないのか」「肩書きだけで相手のことを理解できるのか」といった問いが浮かび、「今回はたまたまスタートアップという形で、社会に問いを投げたかった」と坂木は話す。