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経営・戦略

2024.09.20 13:30

成長戦略の鉄則は「メッシュ型」 強い中堅企業の共通点とは

磯辺剛彦|名古屋商科大学ビジネススクール教授、慶應義塾大学名誉教授

日本経済のけん引役として重要な中堅企業。強靭な競争力をもつ企業の共通点と、成長における注意点とは。名商大ビジネススクール教授の磯辺剛彦が解説する。


なぜ今、「中堅企業」に注目すべきなのか。まず前提として、大・中堅・中小企業ではそれぞれの経営課題が異なることが挙げられる。中小企業の最大の課題は人材や資金といった経営資源の不足だが、中堅規模になるとリソースの制約から解放され、組織経営へと移行する。中堅企業の多くは専業であり、製品・サービス開発や事業展開など、いわゆる競争戦略の策定が重要なテーマになる。大企業になると総合化や多角化を志向するようになり、結果として個々の事業に十分なリソースを配分することが難しくなったり、組織内の調整に時間やコストがとられて、意思決定の遅れや情報共有の妨げになったりする。要するに、中堅規模は事業を強くしやすいポジションにあるのだ。

私は2014年にタニタ社長の谷田千里氏などと「日本の産業力の復興の主役は中堅企業にある」と声を上げて「中堅企業研究会」を立ち上げたが、もっと早く取り組むべきだったという反省がある。日本企業の売上高の25%は中堅企業によるものであること、大企業と比べて中堅企業は地方に本拠をもつ場合が多く、地方創生の観点からも重要な役割を果たしていること、「Fortune Global 500」で日本企業の数は10年の71社から23年には41社に減少し、中堅企業の強化が重要な政策課題であることなどが理由だ。

これまで競争力や経営力が優れている数百社の中堅企業の経営者に話を伺ってきたが、業種業界に関係なく、強い中堅企業には共通した特徴がある。それは、技術力の高さや資本力などではない。最初の条件として、強い中堅企業は会社の設計図の中央に経営理念がある。「夜間の工事から事故をなくす」「大事な人を転倒から守る」「目を守る」のように明確で、戦略テーマとしての曖昧さがなく、(地域)社会の「不」(不安や不満、不便、不快)を解消することに向けられている。

次に、経営理念を実現するための基本方針、いわゆる戦略だ。そこではある意味、非常識なこと、「バカな。そんなことができるはずがない」というものが必要になる。例えば、「店内はガラガラなのに高収益な店舗にする」「生産者直売所でデパ地下と同程度の値段で野菜を売る」といった具合だ。これが他社との差別化を生む。業界の常識をどう裏切るか、トレードオフの関係をどうトレードオンにするかというふたつの非常識が重要だ。

そして、「バカな」を実現するのが独自の経営システム(仕組み)だ。自社の掲げる戦略テーマ(提供価値)の達成に向けて、すべての経営行動や指針が相互補完されていることが必要だ。経営学者のマイケル・ポーターが提案した「活動システムマップ」という概念に近いもので、それぞれの要素が結ばれてひとつの絵になったものが競争力になる。

これら経営理念、基本方針、経営システムを支えるのが、従業員、顧客、地域社会だ。強い中堅企業は理念を共有する仕組みをもっていて、社内の現場に経営理念がそのまま存在している状況を生み出している。おそらく、会社の設計図のなかでいちばん難しいのはここだ。経営理念を一生懸命に伝えるだけでは決して浸透しないというのが、優れた経営者たちの共通見解だ。

例えば、アイリスオーヤマは、毎週月曜日に朝から晩まで新製品開発会議をやることで有名だが、会長の大山健太郎氏は、そこで自分がどのように意思決定をしているかを示すことで、理念を「知らしめる」と話した。大山氏は朝礼などで話した内容を冊子にまとめており、これを主任以上の社員に配り、レポートを書かせるといった評価直結の取り組みも行っている。
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文=磯辺剛彦

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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