「パルワールド」というゲームをご存じだろうか。2024年1月19日にリリースされるやいなや、1日で200万本の販売本数を記録した異例のインディーゲーム(独立系の小規模なゲーム会社がつくる作品)だ。24年2月時点のプレイヤー数は2500万人で、販売額は約692億円(1ドル=154円で換算)と推定される。
パルワールドでは、プレイヤーはパルパゴス島という世界を探索し、パルと呼ばれる100種類以上の生物を捕まえたり、戦わせたり、働かせたりしながらサバイバル生活を送る。仲間で協力してボスキャラと戦ったり、ほかのプレイヤーの拠点を訪れたりすることもできる。サバイバルゲームやクラフトゲーム、モンスター育成ゲームなどの魅力をかけ合わせた本作品は瞬く間に世界的ヒットとなった。
「世界中からIP(知的財産)ビジネスの問い合わせなどが殺到して、数カ月間は通常の業務が回らない状態でした。小さなスタートアップのような会社だったのが、パルワールドを経て求められる役割や立場が一気に変わった感じです」
ポケットペア社長の溝部拓郎はリリース直後の熱狂をこう振り返る。ブレイクの裏側には、連続起業家として成功を収めてきた溝部のリーンスタートアップを地でいくゲーム開発手法があった。
ゲーム業界の「非常識」を貫く
ここで少し、今回のブレイクスルーを語るうえで不可欠な溝部とポケットペアの軌跡を振り返っておこう。ゲーム少年だった溝部は大学時代にピクシブでエンジニアの仕事を経験し、卒業後はJPモルガン証券にテクノロジー職で入社。本業に精を出す傍ら、人生投稿サイトSTORYS.JPを立ち上げ、14年にはJPモルガン証券を辞めてCoincheckを共同創設し成功を収める。
しかしゲームへの愛は断ち切れなかった。そこで15年にゲームの企画開発や運営を手がけるポケットペアを設立し、5年間で3本の作品をリリースした。いずれも大手販売会社などを介さず、PCゲーム配信プラットフォーム経由で販売したインディーゲームだ。
20年にリリースした「クラフトピア」は、インディーゲームでは異例の100万本以上を売り上げ話題になった。それからおよそ3年。パルワールドでポケットペアは桁違いの飛躍を遂げた。その秘訣を溝部は「私がウェブ業界出身だったことが大きい」と話す。
「ゲーム業界ではクリエイターがやりたいこととプレイヤーが望むことの乖離がしばしば発生します。一方、ウェブ業界の人たちは徹底的にユーザーファースト。ゲーム開発でも、私はプレイヤーが何を望むかいちばん大事にしています」
異業種を経験してきた溝部が率いるポケットペアの開発手法は大手ゲーム会社の常識とは一線を画す。例えば、前作のクラフトピアでは開発者すら想定していなかった仕様をプレイヤーが発見したり、プレイヤーがゲームの新しい機能を開発して盛り上がったりすることがよくあった。ユーザーに学び、共につくる。その大切さを溝部はあらためて実感したという。