経営・戦略

2024.09.16 13:30

「パルワールド」誕生秘話、2カ月で692億円売れた驚異のインディーゲーム

前作で好評だったものはパルワールドにも積極的に取り入れた。例えば、クラフトピアでプレイヤーから好評だった「自動化」という機能だ。農作物やアイテムの獲得といった目標が与えられたとき、手作業では手間がかかる。そこで、例えば「農作物をどんどん育てる」のではなく「農作物を大量に育ててくれる設備をつくる=自動化する」ことで労力を減らせば、プレイヤーはより価値があって楽しいことに時間を割くことができる。

「クラフトピアでは、農作物の採集活動を自動化していると、プレイヤーが想定していなかったことがたくさん起きた。これがヒットした要因のひとつでした」

この成功体験を踏まえて、自動化という仕組みをパルワールドにも搭載した。結果、プレイヤーはパルたちに拠点づくりを自動化させたりするのを楽しみ、その様子をこぞって配信した。

「当社ではゲームの開発とマーケティングをはじめから一体化して考えています。マーケティングの本質は、プレイヤーが望んでいることを実現できるゲームをつくるに尽きる。パルワールドはプレイヤーにすごく配信されたから大ヒットしたのは間違いない」
 
もちろん、それには優秀な開発者たちが不可欠だ。ゲームの完成までに40人近い社員を追加で採用した。20歳のコンビニ店員で銃のリロードモーションの動画マニアや、他社の面接に100回近く落ちたが天才的な感性と作業スピードをもつアーティストなど、SNS経由でとがった人材を発掘し、彼らに全力で仕事を任せきった。能力の平準化はしない。一人ひとりの才能が「薄まって」しまうからだ。

最終的に、溝部たちは3年かけてパルワールドを完成させた。10億円あった会社の銀行口座の残高はほぼゼロになった。それでも「ゲームの面白さには自信があった」。満を持してゲームをリリースし、パルワールドは一瞬で世界を虜にした。
 
リリース3日前、溝部はnoteにこうつづっている。

「私たちポケットペアという会社が、ゲーム業界出身のプロフェッショナルの集団で、資金調達を行い、キャッシュリッチな状態だったら、パルワールドというゲームはこの世に生まれなかっただろう」


みぞべ・たくろう◎1988年生まれ。東京工業大学工学部卒。2012年、JPモルガン証券に入社しエンジニアとして従事。その後、レジュプレスを共同創業し、「STORYS.JP」をリリース。仮想通貨取引所の Coincheckも共同創業。15年ポケットペアを創業、代表取締役社長に就任。

文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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