経営・戦略

2024.09.15 13:30

古い価値を生かす伝統をアップデートする「仕組み」:中山亮太郎の「ビジネス夜明け前」

地域資産や技術を次の世代に残すには、どんな工夫が必要か。誰にもマネできない価値のつくり方のヒントを探る。マクアケ創業者による好評連載第45回。


長い年月を経ることで得られた歴史や経験、磨かれた技術は、時にお金には代えられない特別な価値をもつ。しかし、時代に合わないかたちで「古さ」だけを主張しても、それはただの押し付けになってしまう。時間の積み重ねという「価値」をアップデートしながら、そのまた次の時代にバトンを渡していく取り組みも、イノベーションであり挑戦だ。今回はそんな事業をしているふたつの例を紹介したい。
 
ひとつ目は明治時代から100年続く、石川県能登町のふくべ鍛冶だ。刀鍛冶や専門鍛冶といった鍛冶の種類のひとつである「野鍛冶」で、地域の産業や生活に根ざした工具や調理具などを要望に合わせてつくったり、修理したりすることを生業にして地域の支えになってきた。ふくべ鍛冶の地元はイカ漁が有名ということもあり、イカ割き包丁をつくり続けてきたその技術が基礎を成している。
 
野鍛冶として代々磨き上げてきた職人の「研ぐ」技術を生かしつつ、今に合わせた新しい事業を始めたことが私には興味深かった。ふくべ鍛冶が始めたのは、日本で初めてのインターネットを使った包丁研ぎの宅配サービスだ。

オンラインで注文すると包丁の配送専用の箱が送られてくる。注文した人はその箱に研いでほしい包丁を入れて全国どこからでも郵送するだけでいい。自社で製造した包丁以外でもいいし、ほとんどの素材やかたちにも対応している。
 
注文オペレーションの部分は今に合った方法に進化させながら、実際に包丁を研ぐ工程においては野鍛冶としての経験を積んだ職人が手作業で一本一本丁寧に仕事をしている。だからこそ、それぞれの包丁の素材や形状に対して幅広く質の高い対応をすることができ、機械にはできないサービス提供が強みになっているわけだ。職人技術をインターネット技術とかけ合わせたことによって、利用者は一生モノとして購入した包丁や、親や祖父母から受け継いだ思い入れのある包丁を、長く丁寧に使い続けることができるようになった。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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