YCは今月、同社初の防衛テック企業への投資であるAres Industries(アレス・インダストリーズ)と呼ばれる兵器メーカーへの支援を発表した。アレスは、ロッキード・マーチンやレイセオンといった大手の防衛企業よりも小型で安価な対艦ミサイルの開発を目指している(YCは、アレスへの出資額や評価額を明らかにしていない)。
「この分野は、スタートアップにとって素晴らしい市場だ。規模の大きさは実証済みで、競合他社は絶滅寸前の恐竜のようなものだ」と、YCのパートナーを務めるジャレッド・フリードマンは話す。
シリコンバレーと軍との関わりの歴史は古いが、国防総省を相手にしたビジネスは、しばしば論争を引き起こしてきた。例えばグーグルは、社員からの猛反発を浴びて、2018年に軍事プロジェクトのProject Maven(プロジェクト・メイヴン)から撤退した。また、2019年には、パランティアが米国移民・関税執行局(ICE)と関係していることに学生が抗議したため、複数の大学が同社との関係を断った。そして、今年に入ってグーグルのAI部門であるディープマインドのエンジニア数百人が、軍との契約を解除するよう同社に求めた。
こうした中、YCが防衛テックの支援に踏み切った背景には、ウクライナや中東での戦争や中国との緊張の高まりに加えて、Anduril(アンドゥリル)のような防衛テックのスタートアップの台頭が挙げられる。
時価総額が1350億ドル(約19兆7000億円)のロッキード・マーティンのような巨大企業と、YCから50万ドル(約7000万円)を調達したばかりのアレスのようなスタートアップとの差は大きい。しかし、シリコンバレーでは、安く早くミサイルや戦闘機を製造することを目指すスタートアップが増えている。
例えば、カリフォルニア州エルセグンドに本拠を置くCastelion(キャステリオン)は、今年初めに極超音速ミサイルのプロトタイプをテストしたと発表した。同社は、アンドリーセン・ホロウィッツなどの投資家から1400万ドル(約20億円)を調達し、海軍や空軍と契約を結んでいる。