世界人口のほぼ半分にあたる推定33億人が、タンパク質の20%を魚介類から摂取している。そして、世界の漁業資源の93%が、限界またはそれを超えて漁獲されているか、激減状態にある。それだけではない。IUU漁業は多くの国際的な犯罪と結びついており、また中国による油断のならない軍事戦略とも関連している。
各国政府は通常、IUU漁業の問題を環境問題としてとらえ、その対策に取り組んでいるが、それでは不十分だ。米国と国際社会は、この問題の法律・社会・地政学に関わる重要な側面に対処しなければならない。
IUU漁業は大きなビジネスであり、ゆえに大きな問題だ。IUU漁業は、国際的な犯罪組織、人身売買、違法労働、強制労働、テロリズム、汚職、資金洗浄、脱税、詐欺、贈収賄など、数限りない悪事と結びついている。
これらの犯罪組織と、彼らが国家や合法的な漁業者にもたらす年間数百億ドル規模の損害は、経済の安定を脅かし、国際犯罪に対する法執行活動に悪影響を及ぼす。最悪の場合、犯罪組織は、合法的な政府や国家主権を弱体化させかねない。
中国は、IUU漁業を自国の軍事的・地政学的戦略に利用することで、これらの脅威をさらに増大させている。中国は、世界最大規模の遠洋漁業船団を有しており、その大部分が、同国の海上民兵組織としても活動している。これらの海上民兵は、主に民間漁船の乗員で構成されているが、彼らは、普段は漁業を営みながら必要に応じて中国軍の一部を担う「パートタイムの軍人」として位置付けられている。
推定される海上民兵組織の規模は、数百隻から70万隻まで幅広い。これらの船舶は、情報収集、警戒監視、および偵察といった軍事能力を備えている。これらの船舶は、国際法で義務づけられている自動船舶識別装置(AIS)の信号を、戦略的なタイミングで常習的に切断することで知られている。
海上民兵組織の船舶は、中国人民解放軍海軍および中国海警局とともに訓練し、それらの支援を担う。こうした活動は、セカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギン礁)をめぐるフィリピンとの最近の対立や、尖閣諸島をめぐる日本との対立において、重要な役割を果たしている。これらの船舶は、領有権が争われている南シナ海の油田やガス田に侵入し、ベトナムやマレーシアを威圧する目的に使用されている。さらに2020年には、数千キロメートル離れたガラパゴス諸島周辺で、300隻の漁船団がAIS信号を切断して漁業活動を行っていたことが発覚した。中国は、こうした船舶を漁業に用いることもある一方で、常に力の誇示にも使用することで、排他的経済水域(EEZ)における他国の権利を脅かし、国際的な安定を損なっている。加えて、中国による民間船舶の軍事利用は、戦争法の原則を損なうものだ。
中国はまた、金を払って他国の国旗を掲揚できるようにすることで、IUU漁業を拡大している。これは「フラッギング・イン(flagging in)」と呼ばれるプロセスだ。
すべての船舶は、いずれかの国に船籍を登録しなければならず、船籍が置かれた旗国は、当該船舶が、国際法と国際海事機関(IMO)の定める基準を順守することに責任を負う。他国の国旗を掲揚することは、多くの場合、合法的なプロセスであり、通常は、国営企業のCNFC(中国水産総公司)などが、海外と事業提携を結ぶことによって可能となる。それを認識している中国はこの方法を、ひそかに他国の海域に入り込み、いわば戦わずして勝つための明確な戦略に用いている。