そんな日本経済の鍵を握るコンテンツ制作に、インディペンデントで挑むクリエイターたちがいる。エンタメコンテンツを制作するCHOCOLATEの栗林和明CCO、俳優業の傍らハリウッドでも映画製作に携わる齊藤工だ。
5月にフランスで開催されたカンヌ国際映画祭に参加した齊藤工は、衝撃を受けた。今年の公式ポスターに黒澤明監督の長崎の原爆をテーマにした映画『八月の狂詩曲』の一場面が採用されていたからだ。レッドカーペットが敷かれた舞台の上に掲出されたその巨大なビジュアルを見上げたとき、誇らしさと同時に悔しさが込み上げてきた。
「かつて、黒澤明監督や小津安二郎監督の映画は世界を熱狂させた。ただ、僕たちはこの大きな山をまだ超えられていない。いつからか、僕らはエベレストではなく富士山の頂上を目指すようになってしまったんじゃないか」(齊藤)
日本の映画産業を語るときによく引き合いに出される隣国の韓国は、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のアカデミー賞作品賞の受賞を機に世界で確かな地位を築いた。一方の日本映画は、国内市場を見据えた作品が中心だ。
日本の商業映画の製作は、東宝、松竹、東映、KADOKAWAといった日本映画製作者連盟(映連)に属する映画製作配給大手4社がその多くを担っている。製作資金の調達方法は、映画配給会社、テレビ局、出版社や広告代理店など複数の企業が参加する「製作委員会方式」が主流だ。ハリウッドでは映画製作会社が銀行からの融資を受けることがほとんどだが、日本ではリスクが分散でき、多様なメディアミックスが可能なこの方式をとっている。ただ、国内での売り上げ見込み以上の製作費がかけられないことや、国内外の新たな投資家が参入しにくいという課題もある。「良質な作品をつくる」ということ以上に「大コケしない」ことが優先され、似たようなキャスティングやジャンルの作品が量産されている現状もある。
また、日本映画の海外へのプロモーション力やセールス力も十分とは言えない。第96回アカデミー賞で邦画として初の視覚効果賞を受賞した山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』(23年)は、東宝が北米への配給を自社で手がけたことが歴史的快挙につながったが、映画祭や各国の配給会社への太いパイプをもつ国内のセールスエージェントはまだまだ少ない。世界の映画祭で高い評価を受けている是枝裕和監督や濱口竜介監督らの作品の海外展開を担っているのは、フランスなどの国外エージェントだ。