最も拡張性が高いIPは「世界観」
こうした日本映画界に風穴を開けることが期待されるのが、インディペンデント映画だ。栗林も「ポケモンやマーベル、ハリー・ポッターのような、とにかく面白くて世界中で愛されるエンタメ作品をつくりたい」という思いで、製作費約10億円をかけて初のオリジナル長編劇場アニメ『KILLTUBE(キルチューブ)』(26年公開目標)を製作中。グローバルで拡張するIP(知的財産)を狙う。本作を製作するのはCHOCOLATE。これまでヴヴェイ国際ファニー映画祭で長編部門金賞を受賞した『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(22年)などの実写映画を手がけてきたが、7月4日にはKASSEN、WACHAJACKと合同でアニメーションスタジオ「STUDIO DOTOU(スタジオ怒濤)」の設立も発表した。
『KILLTUBE』の舞台は、ある理由で鎖国が続き2026年まで江戸時代が続いている日本。厳しい身分制度に支配された社会で、一国一城を築くほどの影響力をもつのは、決闘動画プラットフォーム「KILLTUBE」の上位7人の配信者たち。そんななか決闘配信の世界に飛び込んだ“最底辺”の3人が奇跡的な出会いを果たし、自由の獲得と成り上がりを目指していくバトルエンターテインメントだ。3DCGをベースとしたアニメーションで、パイロット映像を観ると「江戸パンク」をテーマに、実在する渋谷や新宿の街がビビッドな色合いかつ、複数の質感が融合した画風で描かれている。
本作の監督を務めた栗林の出自は広告クリエイター。JAAAクリエイターオブザイヤー最年少メダリストのほか、カンヌライオンズ、スパイクスアジアなど世界的な広告賞の受賞歴がある。そんなキャリアを生かして、「世界中で愛される作品」をつくるべく6年間で1000のエンタメコンテンツをつくり、『KILLTUBE』にたどり着いた。
IPは「ストーリーIP」「キャラクターIP」「世界観IP」の大きく3つに分けられる。栗林によると、このなかで最も拡張性があるのが、世界観IPだ。世界観が強固で緻密であればあるほど、たとえキャラクターやストーリーが変わったとしてもファンが楽しむことができるからだ。例えば、世界観IPの最高峰のひとつであるハリー・ポッターは、魔法学校の廊下、魔法族が買い物をする商店街に並ぶ店、魔法のお菓子のパッケージに至るまで、作中の美術や小道具の一つひとつがつくり込まれている。だからこそ、グッズ、ゲーム、映画、舞台、テーマパークと拡張性が高いのだ。