エコシステム

2024.09.12 13:30

京都ベンチャーをブレイクさせた「棲み分け進化論」

前出の山下はかつて今西錦司京都大学名誉教授にこう言われた。「京都の産業は、棲み分け進化論だ」。棲む環境によって生物の種の形態が異なっていくという今西の有名な理論だが、京都ベンチャーの発展と重なる。

例えば分析計測機器は島津製作所と堀場製作所は分野を棲み分けている。村田製作所とニチコンはコンデンサだが、ここも棲み分けている。電子部品のロームと村田製作所も同様だ。「地域内で競わない」という文化がある一方で、ロームの血液検査事業が堀場製作所に事業譲渡されるなど、経営者同士が近いため、共存共栄のシステムをつくりあげている。ちなみに、売上高5,177億円の産業用電池のジーエス・ユアサコーポレーションの社名「GS」は、島津製作所の創始者・島津源蔵のイニシャルだ。これも棲み分け進化論の一例と言っていいだろう。

棲み分け進化論と似た話を聞いたことがある。イタリアの産業都市ボローニャだ。ランボルギーニ、マセラティ、バイクのドゥカティが有名だが、革製品、ファッション、ジェラートなど食品用機械、パッケージ機械など、製造業の町である。ここは社員が独立する際、師匠と競合せずに棲み分けることがおきてとなっているという。

では、こうした棲み分けがどうやってグローバル企業に発展するのか。その答えは京都の経営者たちに「なぜ東京に本社を移さないのか」と質問した時に氷解した。

何人もの人が異口同音にこう答えたのだ。「目標は東京ではなく、グローバルだから。京都は小さくて販路を海外に広げないと食べていけない。海外で勝つには技術を磨いてトップになるしかない。域内で競っている場合ではないのです」

土地は狭く、消費者もいない。この制約こそが棲み分け進化論の原点と言えるのかもしれない。

文=藤吉雅春(本誌編集長)

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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