経営・戦略

2024.09.11 13:30

「EUVの時代」を掴んだ寵児 飽くなき種まきが飛躍を生む

恐竜とポルシェの違い

岡林が「町工場の延長のようだった」というレーザーテックに中途入社したのは01年だ。以前は、もっと規模の大きな会社に所属していた。

「新ビジネス創出部門でマネージャーをやっていたのですが、大企業ですから、小さい、特に新しいマーケットには手をつけにくいんです。恐竜はたくさん食べなければ生きていけないので、それなりに成長を期待できるマーケットを探さなくてはならない。一方で、大企業にはやりにくいことを、当社はやってきました」

自動車市場に例えてみよう。価格と性能のマトリックスをほぼ埋めたラインナップを売りとするメーカーもあるが、1社が市場のすべてを抑えているわけではない。「最高級の加速性能をもった車」というセグメントには、ほかのセグメントには進出しないポルシェのような会社がある。

そしてポルシェの顧客は、価格を理由にほかのメーカーの車を選ぶことはない。ポルシェ側も、コストパフォーマンスや企業規模より大切にしていることがある。

「半導体装置という大きな市場のなかで我々が強さを発揮できるセグメント──世の中にまだなかったり、他社がやっていても我々の技術で差別化できたり──そういったセグメントを探し、育つかどうかわからなくても種をまいてきたのです」

ただ、出ていくと決めた市場がどうなるかは、誰にもコントロールできない。その点をただすと、「きっと、エヌビディアもそうじゃないでしょうか」と岡林は自社との共通点を挙げた。「最初から成長市場を狙っていたわけではなく、コツコツとやってきた結果、どこかで世の中の需要につながった。飛び道具があったわけではないと思うのです」。

大きな花が実を結ぶと、種をまき続けるほかにもすべきことが生まれる。EUV検査装置の市場が大きくなってきた今、生産能力やメンテナンスなどのサポート体制の強化にも精力的に取り組んでいる。今後もレーザーテックは飛び道具を追い求めず、変化に翻弄され絶えてしまいかねない恐竜になることも目指さない。

「強みが発揮できない領域を狙ってまで規模を追求することはしません。強みを発揮し世の中に貢献し、それに伴った成長をしていきたい。これからも、もっと小さかった時代と同じように、成長機会には失敗を恐れず、積極的に種をまいていく会社であり続けたいと思っています」


おかばやし・おさむ◎1958年生まれ。住友金属鉱山、横河ヒューレット・パッカードを経て、2001年にレーザーテック入社。03年に取締役、06年に営業本部長、08年に代表取締役副社長など要職を歴任し、09年に代表取締役社長に就任。24年7月より代表取締役・会長執行役員。

文=片瀬京子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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