近年、日本経済にとって大きな焦点のひとつは、未来を切り開くイノベーションの担い手をいかに増やしていくかだった。結果として、スタートアップ・エコシステムが黎明期から産業といえる規模に発展したり、大企業の新規事業創造が活発化してオープンイノベーションが浸透したり、社会全体がアントレプレナーシップをもつ人材の挑戦を支えていく方向に進み始めたことは大きな成果といえる。これに呼応して、こうした挑戦者にとって教科書となる「0→1」「1→10」の事業開発の知見やノウハウの蓄積・共有も進んできた。
一方で、売り上げ数十億円規模に発展した企業が、その後の成長戦略をうまく描けず踊り場を迎えていたり、上場後に時価総額が伸び悩んでいたりするケースは少なくない。事実、中小企業と中堅企業では主要な経営課題が異なる。中小企業の最大の悩み事は資金や人材など経営資源の不足だが、中堅規模では組織的な経営や競争戦略の策定が重要課題となる。今後の日本経済にとって重要な論点のひとつは、売り上げ数十億円規模から100億円、さらにもう一歩進んだ1000億円の壁をぶち破り、新たな成長曲線を描く企業を増やしていくことではないか。
くしくも、スタートアップや大企業の新規事業といったテーマとは別軸で、この「中堅」をめぐる動きが目下、活発化している。経済産業省は今年5月、産業競争力強化法を改正し、従業員数2000人以下の企業を新たに「中堅企業」と定義。2024年を「中堅企業元年」と位置付け、大型の設備投資やM&Aによる中堅企業の事業拡大を税制面で優遇し、地域経済活性化につなげる政策を推し進めている。
中小企業庁では23年から「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会」を開催。成長志向の中小企業経営者を増やして、売り上げ100億円以上の中堅企業に成長させるという新たな方向性の政策を打ち出す方針を掲げている。中小から中堅、中堅から大企業への成長が国の重点テーマとなっているのだ。