経営・戦略

2024.09.09 13:30

アルマーニの「後継者」候補が語るハリウッド、美しさ、ジェンダーの壁

ジョルジオの弟子であるロベルタが、叔父のプロフェッショナリズムについて最も称賛する点は、彼の仕事に対しては厳格だが、デザインをする際にはそうではないところだ。

「ブランドを設立した当時のデザインは、まだ長年培われたテーラリングが主流で、快適さが入り込む余地のない堅苦しくてフォーマルなものでした。あるとき、叔父はそれを変えようと、カーディガンのような柔らかなスーツジャケットと動きを妨げない軽いはき心地のパンツを打ち出しました。それが、アルマーニのもうひとつの転機となったわけです」

ジョルジオは女性たちにフォーカスし、過去の常識を乗り越えたのだ。のりの利いた服が男性にとって不快なら、女性にとっても同じはずなのだ。

「当たり前のことなのに、誰も気づかなかった。気づいた叔父が、女性たちに新しいタイプの服を提供したのです。何より重要なのは、彼が女性に男性と同じように働ける職場を提供していることです」

ロベルタはそう誇らしげに語った。
創業者ジョルジオ・アルマーニ(中央)と並ぶロベルタ(右)。左は米俳優のマリサ・ベレンソン(John Phillips / Beaver Lake Pictures / Getty Images)

創業者ジョルジオ・アルマーニ(中央)と並ぶロベルタ(右)。左は米俳優のマリサ・ベレンソン(John Phillips / Beaver Lake Pictures / Getty Images)

彼女は、自身が手がける最も特別なプロジェクトについても、意気揚々と話した。それが女性だけのための企画だからかもしれない。クロスロードと呼ばれるこのプログラムは、映像化されたエピソードとインタビューで構成されており、そこではさまざまな女性が自らの物語を語っている。

「どの回も、彼女たちの人生の重要な転機や岐路、将来に深く影響を与えるであろう意思決定にスポットを当てています。つまり、こうした並外れた女性たちが自分の人生の主導権を握り、目の前の困難に立ち向かう姿を称賛しているのです」

ロベルタがブランドと業界の将来に関してわかることがあるとすれば、それは女性には力があるということだ。

「今やファッションは美の追求だけでなく、平等、多様性、インクルージョンなどの価値観の擁護を目指しており、私たちはそうしたことに非常にうまく取り組んでいます。私は女性向けのオーダーメードのコレクションを立ち上げたことで、自分たちが平等への正しい道を歩んでいると実感するようになりました。そもそもこの考え方は、よりジェンダーバイアスの少ないデザインを実現する企業をスタートさせた叔父から教わったものです」(ロベルタ)

自分はファッションとオートクチュールの巨匠からいくつもの重要な教えを学んだのだと彼女は言う。そのひとつが、観察の力は言葉の力を上回る、というもの。例えば、彼が職場に最初に来て最後に帰るのを目にして彼女は、成功とは働いてこそ得られるもので、努力と献身が必要なのだと、完全に理解したという。決して単純なことではない。今や年間売上高が23億5,000万ユーロを超える(2022年度末)事業を成功させるのは容易ではないはずだ。

「叔父の会社に対する考え方は、スタイルの提案の仕方と同じです。彼は引き算によるデザインプロセスを信条としています。完璧なパンツ、ベーシックなジャケットやコート、究極のブラックドレス。どれもその本質が見えるところまで余分なものを削ぎ落していくのです」
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文=クリスティーナ・ロメロ 編集=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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