小山薫堂(以下、小山):増田さんって会社の役員をけっこう変えるじゃないですか。あれ、すごいなと思うんです。
増田宗昭(以下、増田):当然だよ。だって会社の成長とともにステージって変わっていくじゃない。10人で始めた会社が、30人、100人とステップアップして、1000人の会社に成長する。さらには上場するとか、時価総額が3000億円になるとかさ。そうすると必要なスペックが変わるし、資本戦略が必要になる。
小山:確かに。
増田:『ラスト・オブ・モヒカン』という映画があるんだけど、そのなかでモヒカン族の酋長はすべてを自分一人で決めるわけ。どの部族を攻めるか、捕虜にどの女をあてがうかとか。つまり集団合議制ではない単位がよい場合もあるじゃない? 薫堂プラス誰、増田プラス誰でなく、薫堂一人、増田一人のほうが、意思決定も早い。
小山:いまもそうですか?
増田:いやそれが、組織が大きくなるとそうできないわけ。モヒカン族の酋長って上場のことぜんぜん知らんから(笑)。
小山:そこで上場の資本政策をできる人に入ってもらうということ?
増田:そう。組織は「変わっていく」ってこと。「変える」んじゃなくてね。逆を言えば、酋長そのものも変わるべきでさ。経営の本質は意思決定であり、組織はその意思決定のレベルを上げるためのもの。それが組織というものの根幹だと思う。
小さくても、目指すべきは「世界一」
小山:増田さんは大学在学中に洋裁学校に通ったり、卒業後にはファッションメーカーの鈴屋に就職したりしていますよね。ファッションブランドをつくりたいという夢はおもちじゃないんですか?増田:世界一にならへんもん。洋裁学校に通っていたころも、高田賢三とか三宅一生が出てきて、「ああ、彼らのような繊細さは自分にはないな。世界一になられへんねんやったらやめとくわ」って。
小山:世界一にしか興味ない?
増田:ぜんぜん興味ない。小さな店でもいいから、やっぱり世界一じゃないと意味がない。僕は大学時代、洋裁と男女交際のほかに、世界を回っていたわけ。その結果、「競争相手は世界にいる」ということがわかった。その相手は、現段階では日本人に見えてないけれど、必ず来る。だとしたら最初から戦う前提で事業を進めないと、短期的に儲かっても、あとでその相手がやって来たら潰れちゃう。TSUTAYAのビジネスを始めたときも、敵はブロックバスターだった。それで彼らが日本に来ても撥ね返せるように、ブロックバスターに勝つ戦略を隅々までしっかりと立てた。
小山:世界一でないと意味がないと思うのはなぜですか。
増田:社会的な価値がないから。
小山:あるいは、自分の存在している意味がないとか?
増田:僕はね、企画は「顧客価値」「収益性」「社員の成長」「社会貢献」という4つの要素がすべて叶わない場合はやめとけって社員に言うの。社会貢献というのは世界一であること。特に薫堂や僕みたいな企画屋は世界一を生み出さないとあかん。それからお客さんだけ喜んでいてもあかんでと。とはいえ社会貢献だけだとコストにしかならんし、顧客価値があっても儲からなければ継続性がない。だから4つが重なった部分に企画を放り込まなあかん。