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ライフスタイル

2024.09.07 15:00

社長への覚悟を決めた、激励と「ワイン」:The Gift (藤倉尚 ユニバーサル ミュージック)

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。



THE GIFT #15

藤倉 尚

ユニバーサル ミュージック 社長兼最高経営責任者(CEO)
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海底約15mで半年間、一定の海水温にて熟成。
ボトルには貝や石灰藻などが付着し、味のあるたたずまいに。
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大学卒業後、ワインメーカーに就職した私は、1年後に思い立って音楽業界に飛び込む。幸いにも素晴らしいアーティストをはじめ、先輩や仲間との出会いに恵まれ、充実した日々を過ごしていた。そんな私が2014年に社長就任の命を受けるとは、まさに青天のへきれき。実は内心不安でいっぱいだった。

そうした折、前職の同僚から就任祝いの贈り物が届く。それは、西伊豆の海底で熟成されたという赤ワイン。海底でもまれたボトルにはオンリーワンの美しさがあり、何より“西洋で生まれたものを日本で熟成させる”という試みに、J-POPに通ずるものを感じずにはいられなかった。お礼の連絡をすると「外資系企業の社長なんて2、3年でクビだろうから、そのときの慰めにでも飲んでくれ」と言う。何とも手厳しい激励だったが、不思議と心が晴れ、開き直って自分の力を出しきる決心がついたのを覚えている。

あれから10年。幸いにしてそのワインは、今もわが家で熟成が進んでいる。同僚には悪いが、これは退職の記念ではなく、日本のアーティストを世界のスターにするというわが夢を果たしたとき、その祝い酒にするつもりだ。


ふじくら・なおし◎1967年、東京生まれ。メルシャンを経て、92年にポリドール(現ユニバーサル ミュージック)入社。2007年に邦楽レーベル「ユニバーサルシグマ」のマネージングディレクターに就任後、08年に執行役員、11年に常務兼執行役員、12年に副社長として邦楽部門を統括。14年より現職。

文=伊藤美玲 イラスト=東海林巨樹

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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