「彼の執政の下、AIはヘラクレスのような至高の力で病気、疾患という双子の蛇を退治し、長寿というオリーブの枝を伸ばす準備ができている」と、“偽造”アリストテレスは宣言した。
しかし、モスタクの賛美的な紹介の言葉の背後には、急速に悪化しつつある真実が隠されていた。かつてAIで最も話題になった新興企業のひとつであったStability AIは低迷していた。数カ月前から資金不足に陥っており、モスタクは十分な追加資金を確保することができなかった。Stability AIの主力製品であるクラウドサービスを支えるアマゾンへの支払いも滞っていた。主力製品であるテキストから画像を生成するソフト「Stable Diffusion」を開発したスター研究チームは、わずか3日前に辞表を提出し、ほかの上級幹部はモスタクに、「あなたが辞任するか、我々が去るか」という最後通告を突きつけた。
それでも、同業者や信奉者からなる大勢の聴衆を前にした壇上で、41歳のモスタクは大見えを切った。「AIは思考のためのジェット機だ」。しかし、その後Stability AIの財務モデルについて質問されると、彼は言いよどんだ。「公には言えません」と彼は答えた。「でも、順調ですよ。予想より早く進んでいます」
その4日後、モスタクはStabilityのCEOを辞任した。X(旧ツイッター)への投稿で彼は、“AIの権力集中”を分散化するために自ら退いたと主張した。しかし、その裏では、外部からも内部からも退陣の圧力が高まっていたにもかかわらず、自分の地位と支配力を維持するために戦っていた。会社の文書や、32人の現従業員、元従業員、投資家、協力者、業界オブザーバーへのインタビューによると、彼の突然の退任は、彼のビジョンとリーダーシップへの信頼を損ない、最終的に会社を足元から崩れさせた、ビジネス判断の誤りであった。