2022年の自身5回目のミッションでは、新しい太陽電池パネルを取り付ける準備のため、船外活動を2回、計14時間ほど行いましたが、設置すべき機材が構造的な干渉で取り付けられない事態に見舞われました。このときも船外活動によるマニュアル操作で問題を解決しています。
自動化が進められる状況においても、生身の人間が介在する有人ミッションによって、危機管理が効率的に実施できます。これが有人ミッションの究極的な強みと言えます。船外活動や、ルーティン化されていない各種実験などでも、クルーによるマニュアル操作は今後も必要とされるはずです。
民間主導が進む宇宙開発
私はスペースシャトルのミッションに3回参加しましたが、スペースシャトルはロックウェルという企業が、NASAのコントラクター(下請け業者)として開発・製造・運用を行った宇宙船でした。しかし、2022年に搭乗した宇宙船クルードラゴンは、スペースX社が開発・製造・運用し、NASAがそれをサービス調達するというかたちで利用しています。これは宇宙開発において民間が主導的役割を果たすようになった一例です。宇宙飛行士の訓練も同様に、パラボリックフライト(放物線飛行)による無重力体験飛行は、以前はNASAが所有するKC-135という飛行機を、NASAのパイロットが操縦することで実施されていました。しかし現在ではこれも民間に移管され、NASAがそのサービスを民間から購入する形式に変わっています。
日本実験棟「きぼう」を利用したミッションにおける民間への事業移管も進み、例えば超小型衛星のISSからの放出に関する事業は、日本のスペースDB株式会社などが代行しています。このように宇宙開発のあらゆるシーンで民営化が進んでいるのです。
ポストISSを担うステーション
ISSは現時点で2030年の退役が予定されています。そこでアクシオム社では現在、新たな宇宙実験拠点となる独自の「アクシオム・ステーション」を開発しており、同機による「宇宙工場」の実現などを目指しています。2022年にNASAは、民間モジュールをISSに接続できる唯一の企業としてアクシオム社を選定しており、ISS退役後の地球低軌道を商用活用するための、重要なパートナーとして位置づけています。2026年末から2027年初頭にかけて開始する最初のフェーズでは、同ステーションの最初のモジュールがISSに接続する予定です。