監査・税務・アドバイザリーサービスを提供するプロフェッショナルファーム「KPMGジャパン」が主催するGTI。最優秀賞受賞企業は同年11月、ポルトガルのリスボンで開かれる世界大会「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator」日本代表の切符を手にする。
当日は、KPMGジャパン共同チェアマン/あずさ監査法人理事長・山田裕行のあいさつで幕を開けた。山田は、今年のGTIには約100社の応募があったことに触れ、「生成AIや再生医療の技術がスタートアップから生まれている。今日のピッチイベントを世界に羽ばたく第一歩にしてほしい」と、参加企業に期待を寄せた。参加企業は4ブロックに分けられ、各社3分の短いもち時間のなかで、自らの技術力や将来性をアピールした。
大会の特徴となったのが、医療・ヘルスケア領域の企業が3割強と目立ったことだ。特に、がん治療への貢献を複数企業が掲げた。そのほか、バイオ、環境問題解決を絡めたエネルギー事業などの領域で活躍する企業も多かった。技術面で光ったのは、AI活用。診療の精密化や大量のデータ解析などさまざまな用途で導入されていることがうかがえた。東京大学や東北大学などの大学発のスタートアップも、確かな研究基盤などを強みに存在感を放っていた。
ピッチ終了後は、審査員からの質疑応答があった。ヘルスケアやエネルギー領域などは、世界規模で課題解決が目指されている問題を含む。「グローバルでの勝機は?」「商品訴求のためにインパクトのある数字を提示できるか」といった成長につながる実践的な質問が飛び交った。
最優秀賞はThermalytica
次世代の「断熱材」に評価
6つ(イノベーション、市場成長性、顧客目線、マーケティング、長期の成長可能性、ピッチのレベル)の同等加重による審査基準により採点され、審査員が各賞を選出した。選考は難航し、予定より20分も長く議論された。最優秀賞には、断熱材の開発、遮熱コーティングサービスを提供する「Thermalytica(サーマリティカ)」が選ばれた。
同社が開発する断熱材「TIISA」は、手のひらに厚さ2mmほどのものを置いて1,300℃の熱を加えても熱さを感じないほどの断熱性を誇る。顆粒などさまざまな形状にでき、建材に混ぜることで建物のエネルギー効率を上昇できるという。
同社経営戦略部長の篠本遼は受賞について、「グローバル展開を進めている段階での最優秀賞受賞は、大きな励みになる。日本のディープテックはまだ評価されていない部分が大きいが、現況をブレイクスルーし世界大会でインパクトを残したい。ヨーロッパでの拠点を整えつつあるので、大会を通じてネットワークを構築したい」と意欲を示した。
審査員長で、「イノベーション・インテリジェンス研究所」代表取締役社長の幸田博人は「グローバルな社会課題を解決するということを日本から発信できる」と選定理由を明かした。
アーリー企業のなかで最も今後の活躍が期待される「KPMG Dream賞」は、高い生産性と栄養価を兼ね備えた次世代タンパク源「ウキクサ」の安定生産技術を開発する「Floatmeal(フロートミール)が受賞。本拠地を置く北海道では餃子の具材として販売されており、実装が近いと評価された。
今後の成長性が高い企業と認められた「あずさ監査法人インキュベーション賞」には、半導体に続く第4の物質群として注目されるトポロジカル物質を使った電子デバイスなどを開発する「TopoLogic(トポロジック)」に贈られた。
イノベーション創出が最も期待される企業へ贈る「Private Enterprise賞」は、プラスティックを分解する独自の化学触媒を開発する「AC Biode(エーシーバイオード)」が選ばれた。問題解決のインパクトと経済性が決め手となった。
社外審査員6人が選んだ「審査員特別賞」は、新たなカーボン材料グラフェンメソスポンジを開発する「3DC(スリーディーシー)」が受賞。ピッチのレベルが高かった企業に贈られる「プレゼン優秀賞」は、歯の再生治療薬の研究開発をする「トレジェムバイオファーマ」が受賞した。
3年目はピッチ以外も充実
グループ全体でGTIを盛り上げる
今年は、審査中の時間を使い、「ディープテックスタートアップの成長に向けて」と題したパネルディスカッションも開催。登壇者はKPMG FASや、KPMGコンサルティング、KPMG税理士法人、あずさ監査法人といったKPMGジャパンのファームの多様な面々だ。IPOのトレンドや地域型オープンイノベーション、グローバル展開をする際に注意すべき税務処理といった、各ファームの専門領域からみたスタートアップの課題などをディスカッションした。
特に地域型オープンイノベーションの話題は盛り上がりを見せた。地域はオーナー企業が多く意思決定が速いために、スタートアップとの協業の動きが大企業に比べるとスピーディであるといった分析が、事例とともに紹介された。日頃からスタートアップに伴走しているメンバーだからこその視点も多く語られ、スタートアップ支援をKPMGジャパングループ全体で注力していると印象づけた。 閉会に際し、KPMGジャパンプライベートエンタープライズセクタースタートアップ統轄パートナー、あずさ監査法人常務執行理事企業成長支援本部インキュベーション部長パートナーの阿部博は、総評とともにスタートアップ企業がグローバルレベルでスケールするための課題を、以下のように分析。多くの参加企業へのアドバイスとなった。
「日本のスタートアップは技術力で世界に劣ることはない。課題となるのは英語力とピッチのレベルだ。ここを磨き続け、世界のコミュニティに入ってさまざまなネットワークを築いてほしい」
「KPMG Private Enterprise Global Tech Innovator」とは
KPMG UK単独開催から世界規模へと発展した、グローバルピッチイベント。各国の代表者は、地元メディア報道およびKPMGのコーポレートチャンネルを通して認知度を高めることができ、同時に投資家やパートナーとなりうる企業などのネットワークも構築できる。受賞企業一覧
最優秀賞Thermalytica
あずさ監査法人インキュベーション賞
TopoLogic
Private Enterprise賞
AC Biode
審査員特別賞
3DC
プレゼン優秀賞
トレジェムバイオファーマ
KPMG Dream賞
Floatmeal
KPMGジャパン プライベートエンタープライズ
https://kpmg.com/jp/ja/home/industries/private-enterprise.html