紛争や環境破壊といったグローバルなイシューから、いじめ、誹謗中傷、メンタルヘルスの問題まで、子どもたちを取り巻く環境はますます不確実性を増している。今回は慶應大学で観想研究センターを立ち上げ、観想教育を日本に広める井本由紀に、子供たちが安心、安全を担保し、他者との共感を育む観想教育について聞いた。
観想教育(Contemplative Education)は比較的新しく、90年代、認知科学者フランシスコ・ヴァレラを中心とするマインド&ライフ インスティチュートにより、古来からの心の叡智と脳科学の結合を行う観想科学という形で研究が進められてきた。
2019年には、米エモリー大学とダライ・ラマ法王との20年以上の共同研究により、幼児から高校3年生までのための包括的な学校教育のプログラム「SEEラーニング(Social Emotional and Ethical Learning)」という形で、全世界に広まっている。
このSEEラーニングは、“世俗的倫理”を育む方法と枠組みを全人類に届けることを目的としている。世俗的倫理とは人間の基本的な価値観とも言われており、 コンパッション、ゆるし、やさしさ、愛、自己規律、誠実さ、寛容さなどを含む。グローバル化や宗教離れなどが進み、世界的な包括性を持った倫理規範が必要とされる中、まさにその旗手となる教育として注目を集めている。
教育の方法論としては、「外からのインプット」「体験により洞察を得る」「繰り返し練習することで身体化させる」という3ステップをもとに授業を行う。授業のテーマは「思いやりにもとづく教室づくり 」「注意と自己認識を育む」「システム思考- 全ては関わりあっている」などが挙げられ、毎回の授業では身体感覚に気づき、安心する記憶やイメージに意識を向けるなど、観想的実践が含まれる。
「観想教育は一人称、二人称、三人称の統合がポイントとなるため、外から客観的な知識を得るだけではなく、実践を通して体で感じながら身につけていくプロセスが重要です。自分が何を感じていて、何が心地よくて、何を選ぶか……ということに気づく練習を行います。そこから、他者への共感やあらゆるものとつながり合って生かされている理解から生まれるコンパッションを育みます」と井本は説く。
シュタイナーやモンテッソーリなどのオルタナティブ教育とは違い、SEEラーニングは公教育への採用を目指してグローバルに展開している。現在、約50カ国で導入されており、ウクライナ、モンゴルでは国レベル、コロンビアやインドでは州レベル、ベトナムでは市レベルで全校に導入されている。日本でも長野県の大日向小学校、東京の自由ヶ丘学園や三田国際学園、静岡県の静岡大成中学など、私立の学校を中心に導入が進んでいる。