授業料の大幅引き上げについては、所得の低い家庭の子どもたちの教育機会を奪い、所得格差を固定化させることになる、という批判が必ず出てくる。これには2つの反論がある。第一に、授業料を引き上げると同時に、奨学金制度を大幅拡充することで、家庭の所得が原因で大学や大学院進学をあきらめることがないようにすることができる。
第二に、授業料を国際的に通用する専門性の高い教育を英語で行う学部・大学院・プログラムには高く、それ以外には安くすることが考えられる。前者は個人へのリターンが高いと考えると正当化できる。コスト面でも、国際的に通用する科目を教えられる教員を揃えるには高い給与を支払う必要がある。
また、外国からの留学生には高い授業料を納めてもらうことも考えられる。アメリカの州立大学が、州内に居住の家庭の子弟には安い授業料、州外からの学生には高い授業料を納めてもらう例がある。州内学生の授業料が廉価である理由は、州内居住者の両親は、これまで、州税を払ってきたこと、学生は卒業後も州内にとどまる可能性が高いので社会的リターンが生まれる、と考えることができるからだ。
授業料の考え方をいくつか示してきた。コストから考えるのではなく、学びたいという学生にどれだけの付加価値を与え、学生が払ってもよいという水準の授業料を納めてもらうことができるか、という需要側の発想が大切だ。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著 に、『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。