仏のカルフール買収提案でとん挫
買収に成功したケースばかりではない。辛酸をなめたのが2021年のフランスの大手スーパー「カルフール」の案件だ。アリマンタシォンは「友好的」なアプローチでカルフールに対し買収を提案。162億ユーロ(約2兆5920億円)でカルフールの1万2000あまりの店舗を手中に収める計画だった。これに待ったをかけたのがフランス政府だ。農業大国のフランスにとって食品流通は「戦略的産業」。2005年に「ペプシコ」が飲料メーカーの「ダノン」の買収を検討していると噂されたときにも、政府が横やりを入れた経緯がある。
アリマンタシォンの執行会長であるブシャール氏はフランスのブリュノ・ル・メール経済・財務相と会談。向こう5年間で30億ユーロを投資し、2年間は人員削減をせず、カナダのトロントとフランス・パリの2つの市場への上場を維持することなどを確約したとされる。
これに対して、ル・メール経済・財務相は「丁寧だが、明確かつ断固としたノン」をアリマンタシォン側に突き付けた。大統領選を翌年に控えていたとあって、政府も大規模なリストラにつながりかねない提案に対して首を縦に振ることはできなかった面もあったのだろう。
新型コロナウイルスの感染拡大下で勢いに乗る「アマゾン」にカルフールと共同で対峙しようというアリマンタシォンのもくろみは水泡に帰した。
アリマンタシォンはセブン&アイが2021年に買収した米国の「スピードウェイ」の入札に参加した経緯もある。ブシャール氏は前出の「ラ・プレス」との2020年のインタビューで、「ライバルのセブンイレブンとの競り合いに勝って米国最大のプレーヤーになりたかったが、米国の規制当局との間に複雑な問題があり、(買収実現のためには)600~800の店舗を売却しなければならなかった」などと語っている。
2020年には豪州の石油精製会社「カルテックス」の買収で頓挫。同社の2000あまりの店舗を手に入れようとしたが、アリマンタシォンが提示した1株当たりの買い入れ価格の低さにカルテックス側が反発。価格を引き上げて対応したが結局、交渉は決裂した。
日本のコンビニは生活に不可欠なインフラ
アリマンタシォンはカルテックスの買収を通じて、手薄だったアジア・太平洋地域でのプレゼンスを高めようとしたとも考えられる。今回のセブン&アイに対する買収提案にもアジアでの橋頭保を築き上げようという狙いがあるのかもしれない。しかし、先行きは流動的だ。セブン&アイが買収に前向きな姿勢を示せば、アリマンタシォンだけでなく競合他社も手を挙げるシナリオもありうる。買収に際してはスピードウェイのケースと同様、商圏の重複する店舗の整理が必要になるのも想像に難くない。
一方、カナダのメディアにはカルフールの例を引き合いに出し、買収の難しさを指摘する報道もある。
ブシャール氏は2022年にラジオカナダとのインタビューで、「買収は他社を呑み込むことではなく、われわれの文化を共有して、ともに成長することである。そのために、準備して別のものを販売し、別の方法で顧客を惹きつけるために事業を再編成しなければならない」などと述べている。
だが、日本社会ではコンビニ文化が深く浸透。生活に不可欠な「インフラ」とも称されるほどだ。しかも消費者の要求水準が高いうえ、流通形態も複雑とされる。欧米流の新たなサービスがどこまで幅広く受け入れられるのか。ハードルは決して低くないようにも思える。