インフルエンサーへの報酬は?
これまでのソーシャルメディアの政治的利用は、2016年大統領選挙以降、トランプ大統領をはじめ候補者自身がSNSを使い「インフルエンサー」として若者の有権者にアプローチしてきた。しかし今回の大統領選では、若者にとってより身近で発信力も大きいインフルエンサーを起用することで、若年票を狙っていく。インフルエンサーをホワイトハウスや党大会に招くだけではない。動画の本数やフォロワー数に基づき、報酬も与える。例えばインスタのストーリーなど短尺動画一本当たりの報酬は、フォロワー数によって変わるが数万から数千ドルと言われており、今回のホワイトハウスにインフルエンサーを招いた件も、女性の人工妊娠中絶権を擁護する「プロテクト&ケアー」など外郭支援団体を介して、ギャランティが支払われている。
政党が直接インフルエンサーに資金を提供すると、倫理面で追及される可能性があることから、支援団体からインフルエンサーへの支払いを行っているが、その額は年間2億ドル(約290億円)を超えるともいわれている。
さらに、発信する動画の内容も複数のインフルエンサーが近似したメッセージを発信しないように操作を行う。複数のインフルエンサーが同様の発信を行うと「やらせ嫌疑」が広がり、信用が失われてしまうからだ。そのため、信用度を高めるためにも、フォロワー数やジャンルも異なるさまざまなインフルエンサーを起用し、戦略的に発信しているのである。テレビや新聞のマスメディアを信用しない傾向の強いZ世代には、こうした戦略がより効果的なのだ。
なかには、バイデンのイスラエル支援に対して批判的な政治インフルエンサーも含まれていて、パレスチナ侵攻に反対するユダヤ人のサリ・ローゼンバーグも参加を表明している。毒を以て毒を制することも、SNS戦略として試されているのだろう。
勝敗を分けるインフルエンサーの影響力
ハリス副大統領が新候補として選任されて以来、民主党はさらにインフルエンサーたちの起用に注力しており、8月19日にシカゴで開催される党大会では従来は用意されることの無かったプレスパスを200人以上に発行。外郭団体が招聘経費やギャラを支払い、映像制作に役立つ動画素材や写真、編集ブースまで提供している。テレビを見ず、新聞も読まない米国の若年層が、旧来のメディアを信頼しなくなっていることは間違いない。そうしたなかで影響力を増強しているのが、インフルエンサーたちである。彼らの実力が大統領選で試されるのは、7月の共和党大会と8月19日から開催される民主党大会だ。そこでの彼らの発信が、若者への影響をどれくらい与えるのか、そして若者層の支持が結果を左右するペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン州などでどんな結果がでるのか、その行方を見守りたい。