そんな人間の脳の初期段階に似たニューロンの小さな塊である脳オルガノイドを、AIシステムと統合する手段を模索する研究者たちがいる。
脳オルガノイドに注目が集まる理由
AI製品が膨大なリソースを消費するのは周知の事実だ。たとえば、OpenAIのChatGPTは、1日に受け取る2億件のプロンプトに応答するために、50万キロワットもの電力を必要とする。そしてこれは1つのAI企業の1プロダクトに過ぎない。世界中で同様のプロダクトが急速に増えている。普及が進むAI競争の中で、このブームを支えるために必要なリソースの規模が、ほとんど私たちの理解を超える段階に達している。しかし、スイスに拠点を置くスタートアップFinalSpark(ファイナルスパーク)が、この問題を解決するかもしれない脳組織を開発した。
彼らは、実験室で神経幹細胞から分離培養された「ミニ脳」を使用して、「生体コンピュータ」を作成した。これは、今日のシリコンチップよりもはるかに少ない電力で動作する。
ファイナルスパークの科学者で戦略アドバイザーのエヴェリーナ・カーティスは、同社のブログ投稿で「生きているニューロンは、現在使用されているデジタルプロセッサーよりも100万分の1以下の少ないエネルギーで動作すると推定されています」と主張している。
カーティスの主張は信じがたいが、これは2023年2月に『Frontiers in Science』に掲載された論文に基づいている。この論文は、「オルガノイド知能(OI、Organoid Intelligence)」の概念を紹介している。OIとは、生物学とテクノロジーが融合して新しい形のコンピューティングを生み出そうとする革新的な分野だ。
効率性に関しては、世界最速のスーパーコンピュータでさえ人間の脳に及ばない
10年ほど前には、世界最高クラスのスーパーコンピュータでさえ、脳活動のわずか1%を1秒間模倣するのに40分間かかった。これは、人間の脳がいかに強力であるかを示している。そして現在、私たちはこれまでにない最速のスーパーコンピュータであるFrontier(フロンティア)を手に入れた。Frontierは、驚異的な1エクサFLOPSのデータを処理することができる。これは、1秒間に100京回以上の計算に相当する。しかし、その裏には、21メガワットもの電力を消費するという事実が横たわっている。
一方、人間の脳は同様のレベルの計算能力を持ちながら、わずか20ワット、つまり電球と同じくらいの電力しか消費しない。ファイナルスパークのような企業は、この驚異的な自然の効率性を利用し、生物学とAIを融合させて、よりスマートで、はるかに持続可能なテクノロジーを生み出そうとしている。