異なるカルチャーを結びつける
特に社会的なインパクトを評価する際に、審査員から挙がったのは「ビジネス性」の観点だ。例えば、2社以上がかかわる共創プロジェクトは実証実験や開発段階を経ているものが多いが、その後、社会に広げていくためには「誰がどのように事業を推進していくのか」までイメージができないと厳しい。審査員を務めた、シャープ元会長の片山幹雄(Kconcept代表取締役社長)は、共創プロジェクトにおいて「事業主体が誰なのかは非常に重要。世界でも戦える競争優位性、独自性があるビジネスモデルなのか」と問いかけた。
また、その事業主体が大企業の場合、やや注意深く見なければならない。クロストレプレナーには、共創で未来を切り拓く「起業家精神」が求められる。従来の大企業と下請けなど受発注の関係性ではなく、同じ未来を描いて社会実装していくため、各社がアセットやレガシー(資産)をもち寄って対等な立場で協業体制を組んでいるかが鍵となる。
厳正な審査を経てグランプリ に選ばれたのは、福井経編興業、帝人、大阪医科薬科大学が手を組み、共同開発した心・血管修復パッチ「シンフォリウム」のプロジェクトだ。
生まれつき心臓や血管の構造が正常とは異なる子どもたちに向けて「患者の成長に対応し、再手術の低減が期待できるパッチ」開発という誰も挑んだことがない医師の夢を実現させるため、共創相手を探すなかで町工場である福井経編興業の経編技術と出合う。
さらにマテリアルとヘルスケア技術に強みをもつ大企業である帝人のアセットをかけ合わせることで、成長に合わせて拡張可能なパッチを実現させた。異なる組織 カルチャーを結びつけ、事業として推進するのは根気がいることだが、受賞プロジェクトに通貫するのは「社会を変えていきたい」という強い使命感だ。