「私はサプリメント信者で、さまざまな錠剤でいっぱいのバッグをもってよく旅行していましたが、それは非常に非実用的でした。6年ほど前のことです。空港の保安検査場で誤ってそのバッグを落としてしまい、ビタミン剤があちこちに散らばってしまったことがありました。スーツとヒール姿で床に這いつくばり、ビタミン剤を拾い集めながら、私は栄養を摂取するのにもっといい方法があるはずだと思ったのです」
フードテック・スタートアップ「Rem3dy Health(レメディ・ヘルス)」CEOのメリッサ・スノーヴァーは、2019年に同社を創業したきっかけをそう振り返る。
欧米では、一人ひとりが健康管理やライフスタイルをより自分に合ったものにカスタマイズし、仕事でのパフォーマンスをより発揮したり、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指したりする潮流がある。スノーヴァーによると、このトレンドは昨今の技術革新によって、一層大きなうねりになっているという。
「従来は、心身にいいとされるサービスやプロダクトがまずあって、みんなが一様にそれらを利用することがウェルネスへのアプローチでした。ところが、昨今の技術革新により、健康や栄養の管理がよりパーソナライズできるようになったのです」
600億通りから最適な一粒を
一人ひとりに、よりフィットしたライフスタイルづくりを支援したいと、スノーヴァーが発案したのが、2020年にローンチした、パーソナライズ・サプリメントグミ「NOURISH3D(ナリッシュ・スリーディー)」だ。ユーザーがオンライン上で生活習慣や健康状態に関する質問に回答すると、32の栄養成分から7種類を絞り出し、600億通りのなかから一人ひとりに最適な栄養素を配合したサプリメントグミを、特許取得済みの3Dプリンターで製造する。フードテック企業とあって、取得済みの独自技術は27にもなる。イノベーションや持続可能な開発、機会の促進に優れた英国の企業や組織を表彰するプログラム「The King’s Awards for Enterprise(英国女王賞)」のイノベーション部門賞を獲得するなど技術力はお墨付きだ。
ビジネスパーソンに受ける「効率と手軽さ」
英国では健康意識の高い人や多忙な社会人、フィットネス愛好家など、健康ソリューションを重視する人々に多く利用されている。同社がユーザーのペルソナとして描いているのは、「プレート・スピナー」と「プロジェクト・マックス」という人物像だ。スノーヴァーが説明する。「『ビジー・プレート・スピナー(皿回しをするように、多くのタスクを同時にこなす人)』は、キャリアと家庭、そして自分自身の要望を両立させたいという人を指す言葉です。『プロジェクト・マックス』はパフォーマンス、目標、健康を最適化することに重点を置く、高業績のプロフェッショナルのことです」
「いずれのペルソナもアクティブで、理想のライフスタイルを送りたい人たちで、健康習慣における効率性や利便性、パーソナライゼーションを優先すると私たちは考えています。複数の栄養素がひとつのグミに集約されたNOURISH3Dは、その手軽さから、コストパフォーマンスにもタイムパフォーマンスにも優れており、彼らの志向性と相性がいいんです」
「健康を自分でつくる楽しさを伝えたい」
同ブランドは米国でも販売。海外志向の強い同社が次に選んだ市場が、日本だ。スノーヴァーがその狙いを明かす。日本では昨年8月にウェブサイトでの販売を開始し、ポップアップイベントも展開している。「日本は、先進的な技術インフラと健康志向の高い国民性から、大きな可能性を秘めています。日本のユーザーは革新性と品質を高く評価すると考えます。それはNOURISH3Dの『栄養をテクノロジーでパーソナライズする』というアプローチに一致します。当社の製品が日本のユーザーのニーズと嗜好に確実に応えると信じています」
用途に合わせてあらかじめ栄養素を組み合わせたプレブレンド製品も用意。また、単に英国の商品を持ち込むのではなく、オリジナルのゆずのフレーバーも製造するなど日本人の嗜好にあうよう改良もした。これに加え、ブラッドオレンジ・青りんご・パイナップルなどからも選ぶことができる。
日本での展開に、Rem3dy Health Japanの中村曜子は手応えを感じているという。
「栄養を摂取しなくてはというプレッシャーからではなくて、おいしいから続くという方向に変えたことが従来サプリとの違いだと思っています。この続けやすさが日本人にも受けていると思います。人間の意思はそれほど強くないので、毎日、水を用意してサプリメントを摂取しなければならないとなると挫折してしまう人も多いはず。忙しい人ならなおさら時間を割けないと思うんです」
一方で、英国と日本では、健康に対する価値観に違いがあると中村は指摘する。
「日本は社会保障が充実しているせいか、栄養やセルフケアに関する知識をつけようとすることに、欧米に比べるとまだまだ積極的ではない傾向にあります。自分に必要な栄養素を深いところまで調べる時間がないか、そもそもそうしたことに時間を割きたくないという方もかなりいらっしゃるように思えます。実際に、あるお客さまが『NOURISH3Dに任せておけば、脳内のリソースを栄養や健康に割かなくて済むのがいい』とおっしゃっていたことが印象に残っています」
こうした違いを受け、日本ではよりユーザーに寄り添うサービスを展開したいと中村は言う。
「製品を通じて、理想のライフスタイルに向かって自分の生活や健康管理をカスタマイズしていくことが、ポジティブで楽しいものとして伝えたいのです。お客さまが目指すライフスタイルを実現できる、そのためのサポートに重点を置きたいと考えています。お客さまに定期的にコンディションチェックを促したり、管理栄養士に体の状態を相談したりする仕組みなどもあっても良いのではないかと議論しています」
特定ニーズに配慮した製品も
世界で注目されるヘルスケアのパーソナライゼーション市場は、AIや3Dプリンターなどのテクノロジーの進歩により、さらに精緻なカスタマイズが可能になると、スノーヴァーは予測している。「業界全体のイノベーションがより促進され、より効果的にパーソナライズされたヘルスケアのサービスや製品が生み出されていくに違いありません。それによって、ウェルネス産業がさらなる革新を遂げていくことでしょう」(スノーヴァー)
日本も例外ではなく、新たなサービスや製品が市場に続々と登場するだろう。日本も例外ではなく、新たなサービスや製品が市場に続々と登場するだろう。Rem3dy Health Japanも幅広いニーズに応えていくため、異業種との共同開発を進めている。例えば、口の健康を考えたプレブレンド製品の開発を歯科医らと進め、近いうちに製品化の計画があるという。
「日本のお客さまがなりたい姿に向かうため、当社は栄養管理を任せていただくパートナーになりたいと」中村は言う。今後は、1日中パソコンの前に座っているゲーマーなどの特定層をターゲットとした製品や、肩や目といったテーマでの製品開発をしたいと意欲を燃やしている。
8月下旬から、大阪でポップアップ開催
8月28日~9月17日、大阪の大丸梅田店でポップアップイベントを開催。パーソナライズ診断クイズや3Dプリンターのデモ機を展示する。プレブレンド製品も販売し、本国で人気のある『BEAUTY STACK』などに加え、多忙な生活で栄養が偏りがちな東京に住む人をイメージして開発した『<TOKYO STYLE>ESSENTIAL STACK』、エネルギッシュな大阪に住む人をイメージした『<OSAKA STYLE>ENERGY STACK』など6種類を用意する。概要は以下の通り。【期間】 2024年8月28日(水)~9月17日(火)
【場所】大丸梅田店 1階イベントスペース 〒530-8202 東京都 大阪市北区梅田3-1-1
【営業時間】 10:00-20:00
※営業時間は変更となる場合がある。詳しくは大丸梅田店HPへ
※イベントの内容は、都合により変更または中止となる場合がある
NOURISH3D
https://nourish3d.jp/
メリッサ・スノーヴァー◎ Rem3dy Health創業者兼CEO。2010年にヴィーガン・アレルゲンフリーのフルーツガム「Goody Good Stuff」を立ち上げ、13年、スウェーデンの菓子メーカーに事業を売却。15年には菓子3Dプリンター「The Magic Candy Factory」を立ち上げた。19年にRem3dy Healthを創業し現職。20年1月、英国でNOURISH3Dの販売を開始した。
なかむら・ようこ◎Rem3dy Health Japan。某食品メーカー出身。2024年よりNOURISH3Dの日本事業展開を支援。