ターゲットがこのAIツールを導入したのは先月のことだ。他の小売企業と同様に、同社はChatGPTのようなボットを採用した。しかし、同社が異なるのは、このツールがカスタマーサポート向けではなく、従業員の業務支援を目的としている点だ。
同社のヘルプAIは、新入社員や季節雇用の従業員が仕事を学ぶのを支援するためのもので、「チームの仕事を楽にし、より迅速かつ効率的に仕事ができるようにする」とされている。しかし、従業員たちは、ヘルプAIからは真っ当な回答が得られず、使い勝手が悪く、仕事の妨げ以外何物でもないと述べている。彼らの多くは、このツールが「リソースの無駄遣い」だと指摘している。
ある従業員は、匿名を条件に次のように述べた。「このツールの目的は、ターゲットが自社の革新性をアピールすることだ。ヘルプAIは、ChatGPTの劣化版で、より制限がある」。また、別の従業員は、「クソみたいな回答をするので、私たちはクソボットと呼んでいる」と話す。
ある従業員が紹介した事例では、ヘルプAIは、基本的な店舗用語の説明ができず、回答は概して不完全で、ほとんど役に立たなかったという。また、テキサス州にある店舗の従業員が、店内での銃撃犯への対処法をヘルプAIに尋ねたところ、AIは近くに武器があれば立ち向かうよう指示し、特に野球のバットを使うよう勧めたという。
「そうした状況では、まず隠れるべきだ。武器を探しに行くべきではない」とその従業員は話す。米国土安全保障省のガイダンスにも、「避難」と「身を隠す」ことを第一と第二の選択肢として挙げており、行動を起こすのは最後の手段と記載されている。
株価は2021年の高値の半分に
ターゲットの広報担当者であるブライアン・ハーパー=ティラドは、銃乱射事件が起きた場合のチャットボットの指示に関する質問に答えなかった。彼は声明の中で、「当社は、お客様により良いサービスを提供するために従業員の仕事をより簡単にすることにコミットしており、ボットに関するフィードバックを受け付けている」と述べた。ターゲットは、今年初めに公表した年次報告書の中で、AIが成長戦略の一部になると述べていた。時価総額700億ドル(約10兆7000億円)規模の同社は、2017年以来で売上が初めて落ち込むなど、業績悪化に苦しんでいる。同社はウォルマートに対する競争力を維持するため、一部の商品の価格を大幅に引き下げたが、株価は約150ドルと、2021年のピークからほぼ半減している。
ターゲットは、自社が社内業務用にAIを採用した最初の小売大手だと主張しているが、業界関係者は、同社の投資対効果を評価するのは時期尚早だと述べている。「重要なのは、AIが役に立っているか否かということだ。顧客満足度が向上し、売上が伸びているかは、先々明らかになるだろう」と、KPMGの小売アナリストであるドゥリープ・ロドリゴは話す。
ターゲットの従業員の中には、ヘルプAIに投じたリソースを他の用途に充当するべきだったと考えている者もいる。その一人である女性従業員は、次の様に嘆いた。「最近は、店舗のセルフレジが閉鎖され、レジにスタッフが一人しかいなかったため、顧客は長い行列で待たされた。会社は、なぜもっと役に立つことに時間を使わなかったのだろうか」
(forbes.com 原文)