7月25日、インディペンデント系アーティスト、Jack & Jack (ジャック&ジャック)がiTunesのアルバムチャートで1位 を獲得した。彼らの4トラックEP『Calibraska』はテイラー・スィフトの『1989』を抜いてチャートを急上昇した。更に注目すべきことに、彼らは音楽アップロードサービスのDiscroKidを利用している。DiscroKidはミュージシャンが自分たちの音楽を、安く簡単にiTunesなどのオンラインサービスにアップロードするサービスを提供しており、それらの音楽のロイヤリティは全てアーティストの懐に入る。
Jack & JackはVineで一躍スターになったティーンエイジ・デュオで、そのフォロワー数は570万人。YouTube でも100万人以上のフォロワーを抱える。ソーシャルメディア発のスターがiTunesのアルバムチャートで1位を獲得したのは、この2人が初めてではない。同じくVineでセレブになったShawn Mendesのデビューアルバムも、アイランド・レコードとの契約後ではあるが1位を獲得している。
DistroKid のユーザーは、年間使用料19ドル99セント(約2478円)でiTunes、Spotify、Amazon、Google Playや Tidalといったオンラインサービスに自らの楽曲をアップロードして配信することが可能だ。 DistroKidに支払うのはアップロード時にかかるこの年間使用料だけで、販売価格からそれぞれの配信サービスのトップオフを除いたロイヤリティの全額はミュージシャンの手元に入る。
「通常はレコードレーベルと契約するかディストリビューターを通さない限り、ミュージシャンが音楽をアップロードして配信することは出来ません。 DistroKid以外のサービスを利用する場合、一定料金で何曲でもアップできるわけではなく、アップロードする度に料金を請求されます」
DiscroKidの生みの親、フィリップ・カプランはこう説明した。DistroKid を利用してアルバム1枚をアップロードすると、4時間以内に販売サイトに出回る。他の仲介サービスと比較すると圧倒的にスピーディーだ。競合サービスのTuneCore の場合はアルバム1枚のアップロードに初年度29ドル99セント(約3700円)、翌年度からは49ドル99セント(約6200円)を求められる。CDBabyに至っては、CD1枚の売り上げにつき4ドル、配信サービスによる売り上げの9%という手数料を要求される。
2年前のローンチ以来、DistroKid は25,000人のミュージシャンに利用され、 1日に2000曲、アルバム200枚をリリースするまでに成長した。
同社のただ1人のフルタイム社員でもあるカプランはこう述べる。
「我が社はYouTuberたちと一緒に成長してきました。 YouTuberたちは毎週1回は音楽やビデオクリップをアップロードしますよね。その楽曲を全てiTunesで配信するには何千ドルもかかります。それがタダ同然でいくらでも配信できる仕組みがDistroKidなのです」
冒頭にあげたJack & Jackたちは1995年以前に生まれた世代には全く無名のアーティストだ。しかし彼らはソーシャルメディアを通して何百万人というファンを獲得し、ある日突然スターになってしまったのだ。
Twitter で110万人のフォロワーを抱える彼らは、何千枚のCDを売ることも可能だろう。通常、アップルの場合は販売価格の30%がトップオフされて、残りがレコード会社とアーティストに行く。レコード会社と契約し1枚11ドル(約1400円)のアルバムをリリースした場合、アーティストの手元に入るのは、1枚につき1ドル50セント(約185円)程度のものだ。しかし、DistroKidを利用すればアルバム1枚につき7ドル70セント(約955円)程度を手にすることができる。
さらに、オリジナルの楽曲を持たないアーティストのためにDistroKidは自社のサービスを通してカバー楽曲を販売する権利も取得している。これが手っ取り早くスターになりたいYouTuberらに好評なのだ。
SNSの隆盛やデジタル配信の普及は今、従来の音楽ビジネスに確実に変化をもたらしつつある。